連載2-7、後代検定のポイント その六

このコーナーは、会員の方からの寄稿や過去に掲載された本誌の記事を元に、伝書鳩及び鳩レースの今昔を鳩仙人の語り口で掲載します。本稿は本誌で連載された「レース鳩作出余話」(83年〜87年連載)を引用・改編しています。(イラスト著作/無料イラスト素材 はちドットビズ)

(四ノ二)方向判定能力の続き

日本では総合優勝を最も評価する風潮であるがゆえ、誰しもがブッチギリで優勝するような鳩を作りたいと考えるものじゃ。何千羽、何万羽以上参加の大レースで、見事な優勝を飾るためには、非常に優れた方向判定能力を持った選手鳩を揃えなければならん。それは多少天候が悪くとも、正しく鳩舎の方向へ飛び続ける能力が求められるのじゃ。

前回、この能力の後代検定の手段として、思い切ったジャンプによる単羽訓練を述べたが、若鳩達は各鳩舎の将来を担う大切な選手鳩の候補でもあろう。このホープ達が受ける後代検定は、その若鳩達にとって、またと得難い訓練とならねばならぬ。これをうまくこなすことで、その他のあらゆる性能をうまく育てる方法を操ることもできるようになるじゃろう。ただし、若鳩に負荷をかけるテストやレースが、その発育を阻害するようなものにならないよう、十分な配慮も必要じゃ。

古いヨーロッパの愛鳩家達の中には、若鳩や1才鳩は未だ発育途上であり、2才を迎えて初めてレースに参加させることが出来るといった慎重な考え方を持つ者もおる。ここで鳩レース以外に目を向けると、同じ競争動物である競馬のサラブレッドの場合も、調教師の人達は将来に大きな期待を寄せている3才馬のレース参加は慎重そのものじゃ。

最近、欧州はもちろん日本の秋レースでも、随分と長い距離を実施しておるケースもあるが、若鳩の参加に関しては、充分に配慮するべきじゃ。成長の妨げになるようなハードなレースは見合わせるように心掛ける必要があるじゃろう。長い距離の秋レースに若鳩を全鳩投入することは、差し控えるよう考えるべきではないかのう。しかしながら、それでは性能検定の目的を達することができないので、わしは「これは!」と思う若鳩のオスは300Kでレースを止め、その代りにオスに比べて発育の速い同腹のメスを以降のレースに参加させて、後代検定を推量するのが好ましい方法ではないかと思っておる。

こう考えると、単羽のジャンプ訓練を何回行うかは悩ましいところでもあろう。回数は多い方が、その性能の評価が正しいものになるのは当然じゃ。しかし、秋に若鳩を飛ばせる期間は短いし、訓練間隔を詰めてしまうと過労に陥らせてしまうことのもなるのう。訓練を行うのは、ぜいぜい2回から3回といったところか。あとは、レースの成績を併せて参考にすれば良いじゃろうの。

いつでも、わしら愛鳩家は、訓練やレースに参加させた鳩に全て帰ってきて欲しいと思うものじゃ。しかし、多くの若鳩が互角の成績で帰舎したのでは、どの鳩の性能が良いのかがわからぬ。帰りすぎても困るし、逆に帰りが悪すぎても困る。要は、全滅せずに性能の判別がつく程度に成績がばらついた方が好ましい。そのためには、放鳩日の天候の選択が重要じゃ。前もってその年はもちろん、前年や一昨年の気象条件も調べておき、適切な日を選ぶようにせねばならんのう。毎年の気象条件の変化は、打ち寄せる波のようにある程度に通った変化となる場合が多いものじゃ。このチャンスをうまく捕まえることが大切よのう。

後代検定のポイントは、これでおしまいじゃ。では次回、作出における相性について語るとするかのう…。     (この稿続く)

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