連載2-6、後代検定のポイント その五

このコーナーは、会員の方からの寄稿や過去に掲載された本誌の記事を元に、伝書鳩及び鳩レースの今昔を鳩仙人の語り口で掲載します。本稿は本誌で連載された「レース鳩作出余話」(83年〜87年連載)を引用・改編しています。(イラスト著作/無料イラスト素材 はちドットビズ)

(四ノ一)方向判定能力

後代検定のポイントの最後は、レース鳩の最も大切な能力である方向判定じゃ。この能力に関しては、今日まで世界中で様々な学説が述べられているが、いまだに結論には達しておらぬ。そのため、受際に若鳩を飛ばしてみて、その結果で確かめるしか検定方法は無いのじゃ。

ではその方法じゃが、「秋季シーズンに行われるレースに若鳩を参加させて調べれば良い」という意見もあるじゃろう。じゃが、集団で放鳩された場合、鳩は1羽で飛ぶことは無く、群れを成して飛ぶ習性がある。レースでは、その後に飛翔力と体力の差で、集団が帯状になってゆくものと考えられるため、優勝鳩に方向判定能力があるかどうかの判断は微妙じゃ。やはり最も信頼できる方法は、若鳩を各個放鳩訓練を行い、その所要時間を割り出すのが良いのう。この時、1回の訓練で、15分程度の時間差をおいて個々に鳩を放つ人もおるじゃろう。しかしこれでは、先に放した鳩と後に放した鳩が一緒になって帰ってくることもあるし、最初は早朝に放しても、30羽も放つと正午頃になってしまうのう。これでは気象条件も違うし、正確な検定はできぬのじゃ。とはいえ、個々の鳩を持参して、何度も訓練に行くのは面倒なのも確かじゃ。

そこでわしは、数回のテストで能力がわかる良い方法が無いかと考えた末、20キロから30キロの近距離訓練で同一地点からの集団放鳩、単独放鳩、2羽同時放鳩という3通りの基礎放鳩訓練を数回行った後、150キロから200キロと思い切ったジャンプをして、そこで一挙に単羽訓練を行ったことがあるのじゃ。このジャンプ訓練での所要時間、帰還状況のデータを整理すれば、おのずとどの種鳩から生まれた仔鳩が良いかの判定ができると思ったのじゃ。

この場合、平たんな地形、山岳地帯といった各地域特性で距離を伸ばしたり縮めたりすればよいじゃろう。訓練地は、将来のレースコース上を選ぶのはもちろんじゃ。わしの経験から、訓練でもレースでも、帰還に一番影響が多いのは天候じゃ。訓練には好天の日を選ぶのが普通じゃが、多くの帰還鳩が出た場合、少々天候の悪い日に同じ訓練を行うことで、個々の鳩の実力をテストすることもできるぞ。レースでは天候の急変といった非常事態もある。ある程度、選手鳩には悪天候下での方向判定能力も備わっておいてもらいたいものよのう。それも頭に入れて、訓練を行った方が良いじゃろう。スピード性だけを追っておると、レースで思わぬ大打撃をくらってしまうこともあるものじゃ。

あと、訓練で注意したいことは、孵化後の日数をだいたい一定にした状態で、テストをせねばならん。極端に若い鳩では、訓練で全滅の憂き目に遭ってしまうことにもなりかねん。基礎放鳩訓練の開始は、少なくとも孵化後3か月以上のトリでなければのう。そのためには、一番仔グループ、2番仔グループとしっかりとした計画に基づいて、訓練を実行する必要があるじゃろう。若鳩への慎重な配慮が必要ということじゃ。

では次回、この方向判定能力の検定の続きを語るとするかのう…。     (この稿続く)

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