連載2-5、後代検定のポイント その四
(三)気力・知能
レース鳩が好成績にてレースを帰還する諸条件を鑑みると、これまで語ってきた肉体面と共に、精神面も非常に大切な問題じゃ。レース鳩が鳩舎で活力に満ちた生活を送り、レースでの輸送、帰還途中の様々な障害に対応していくには、毅然と難関に立ち向かう精神力、すなわち他のトリよりも優れた気力と知能が求められるじゃろう。
スポーツにおいて、アスリートが持てる体力を最大限に発揮して勝利に結びつけるためには、何事にも負けない気力が大切となる。もちろん、これはピジョンスポーツにおいても同じじゃ。そうでなければ、幾千幾万のライバルを振り切り、孤独な飛翔を続けて2位以下の鳩を大差でちぎって優勝を遂げることなど、とても無理じゃろう。持ち寄り時の輸送籠やケージの中でも周囲の鳩を寄せ付けないような毅然とした佇まいの鳩は頼もしい。また自鳩舎内でも、給餌や止まり木に止まっている時、充分に自己主張できる鳩であって欲しいものじゃ。
知能に関してじゃが、歴戦の勇士であるCH鳩は、実に賢いことに驚く。どの鳩が賢いかは、個々のトリの動作を注意深く観察することで見分けることができてくるのじゃ。知能の優れた鳩の身のこなし方は、常に他のトリに先んじて、止まり木や巣房も素早く占領し、輸送籠やケージでも最も居心地の良さそうな場所に身を置く。もちろん、放鳩後も猛禽類から素早く逃げ切って、帰還することとなるじゃろう。また、そのような鳩は、飼い主の動作や癖まで良く承知しており、こちらが次に何をするかまで予測しているような敏感さを持っておるものじゃ。餌も一番早く必要なだけ食べて、自分の巣に戻って涼しい顔をしておったりする。飼い主に馴れることも、鳩舎の鳩の中で一番早いようじゃ。
このような鳩の精神面は、肉体面と違い、簡単に判断できぬ。どうしても経験が必要で、時間が掛かるものじゃが、レース鳩を飼育する上で非常な大切なことであるので何とか努力したいところじゃ。ここでひとつ、わしが経験したエピソードを紹介しようかのう。
今から30年以上前の冬、わしがベルギーのケンペニール 氏の鳩舎へ種鳩を求めて訪れた時のことじゃ。その時、すでに前年に作出した若鳩は譲ってしまった後で、遅生まれの若鳩ならば譲っても良いとのことじゃった。当時、同鳩舎はベルギーの強豪として、81年マルセイユN優勝、ルルドIN2位、82年ブリーブN優勝といった好成績を残しておった。さらに同氏は屈指の名系コレクターで、基礎鳩に有名なヘクトール・デズメ鳩舎の『ウィットペン』、ルイ・ペパーマン鳩舎の『ブルー・リモージュ』など、数多くの名系が集められておった。ベルギーの冬は日が早く、訪問時はすでに日が陰っており、鳩が見られぬ。そこで、最上段の止まり木から6羽、2段目の止まり木から2羽を選んだのじゃ。すると、それらの血統は6羽がCH鳩の直仔で、2羽は名系のラインであった。これは前述のように、最上段の止まり木を占領しているトリは、気力と知能が優れているとの考えで選んだのじゃ。このことで、わしはケンペニール 氏に高く評価して頂き、その後は手離し難い鳩も譲って頂ける間柄となったのじゃ。
手前味噌のようじゃが、種鳩選びの面からも鳩の気力・知能を判断できるようにすることも必要とわかってもらおうと思ったのじゃ。では次回、レース鳩の天性ともいえる方向判定能力を語るとするかのう…。
(この稿続く)