連載2-44、世界の鳩界事情 その十七
●超長距離鳩の特性
わし自身のフォートウェインからの導入鳩の繁殖の結果としては、ヨーロッパからの鳩達には見られない非常に優れた性能があったものじゃ。特に記述しておきたいこととしては、その異常なまでの活力じゃった。
長距離レースで参加鳩が後日帰舎する場合を検討するならば、通常は放鳩翌日、せいぜい3日目までじゃろう。その後は1週間を経過し、8日目頃から途中でうまく食料にありつけて体力を回復させることができた鳩が、ぽつりぽつり、チラホラと帰舎するのが従来の後日帰りのパターンじゃ。
ところが、フォートウェインのレース鳩の系統が入っておる鳩達の中には、放鳩4日目や場合によっては5日目でも帰舎する鳩がおった。これは凄まじいバイタリティを持っているということであろう。
この点は、超長距離レースを目標とする場合には、非常に大切な長所であり、また困難な長距離レースを戦う場合にも有利な要素の一つとして作用する性能と考えられるのう。ただ残念なことに、スピード性を争う昨今の日本の一般的なレースにおいては、第一線級のスピード鳩には歯が立たないという弱みがあるのじゃ。こればかりはなかなか両立が難しいものよのう。
●悪天候鳩
アメリカの鳩で最も大きな長所と考えられる性能は、悪天候レースの克服能力じゃ。
以前にも述べたが、大西洋を東に臨むアメリカ東部と太平洋を東に臨む日本とでは、地理的に大きな類似性があり、気候の面でも似ている点が多い。雨の降り方もしとしとと長雨の形になり易いのじゃ。これはヨーロッパやアメリカ西部の気候とは大きな違いとなっておる。そのため、悪天候に順応できる系統のレース鳩が育ったという訳じゃ。
わしはイギリスのレース鳩の記述で、ローガン系をはじめとする同国の系統の成立の苦労について述べたが、そのローガン系がアメリカのボルチモアのオペル氏によって引き継がれ、オペル系という一つの立派な系統に成長を遂げるに到ったのじゃ。
このオペル系は、さらにマッコイ氏、ウェーベル氏といった愛鳩家たちによって継承され、悪天候下のレースにおいて、実に素晴らしい独壇場ともいえる活躍ぶりを発揮したのじゃ。
1965年にロンドンで開催されたオリンピアードにおいて、わしと同席じゃったアメリカンレーシングピジョン・ブレティン誌の主筆のラバーツ氏と話し合う機会を得たが、同氏は「アメリカ鳩界で悪天候に強い鳩は、ボルチモアのマッコイ氏のオペル系だ」と意見を述べられておった。また「ただしマッコイ氏のオペルが勝てるレースは、分速が800ヤード台(分速700m台程度)の難レースであるということも、充分に承知しておかなければならない」と付け加えられたことは、今もわしの記憶に鮮烈に残っておるぞ。
では次回も、レース鳩の特性について語るとするかのう…。
(この項続く)