連載2-16、交配について その四
これまで、この稿では交配・作出について述べてきたが、ここで動物の育種遺伝学の基礎的な知識に関して解説しておかねば、充分なご理解を得られないのではないかと気が付いたのじゃ。これから述べることは、この方面に造詣の深い方々には、誠に初歩的なことで申し訳ないが、ひとつご辛抱頂きたいものじゃ。
近親交配とは、近縁関係にある雌雄を交配することで、学術的には同系交配とも呼ばれるのじゃ。近親交配の中でも、親子の交配、兄弟・姉妹の交配、祖父母と孫の交配は最高度、叔父と姪、叔母と甥、孫同士の交配は高度、さらに遠い血族間の交配は中度と区分される。数量的に、近親交配係数として高度な交配ほど数値が高くなるじゃろう。
近親交配は動物育種の第一歩であり、これを行うことによって遺伝因子が様々に組み替えられ、これまで表現化されなかった因子の組み合わせで突然変異が出現するなど、目的とする優秀因子を集めた個体を作出、系統を分離及び固定することもできる。じゃが、良い結果ばかりではなく、むしろ重大な欠点を出現させる場合の方が多い。中でも、強健性の減退はおおきな問題じゃ。一般的に、近親交配の高度が高くなるに従い、発育が遅く、体格が劣弱となり、病気になる確率や死亡率も高くなる。
ただ、わしらがレース鳩の作出をするにあたって、優秀な性能を持った自鳩舎の系統を作り上げるためには、近親交配は避けて通ることはできぬ。幸いにも、近代においてモルモットやハツカネズミなどの実験動物で、強健性の減退を防ぎつつ、百世代以上に渡る近親交配を成功させている例がある。従って近親交配の際には、レース鳩の優秀な性能に目を付けると同時に、強健性についても充分な配慮と検討を行い、種鳩の選択などに取り組まねばならぬじゃろう。ペアを選ぶ場合、どの程度の高度な交配にするのかを考えることが必要じゃ。近親交配の繰り返しで優秀なレース鳩をつくり出すということは、強健性の減退はもちろん、重大な欠点も表面化するということが多く、なかなか難しいものじゃ。
近親交配では、やはり最初のスタートが優秀な系統であることが大事じゃろう。同じ系統でも、その中で最も優れた鳩を基礎とすることは、良き近親交配を作り上げることができるか否かの重大な分岐点にもなる。その後の繁殖過程では、前述の交配の高度などを充分に踏まえて、当初からいささかの虚弱化も容認することのない姿勢が大切じゃ。最終的には訓練やレースでの選別になるが、この場合も自鳩舎がその系統に何を求めているかをはっきりと認識し、レース鳩の年齢によっての成績結果も最終判断の材料とせねばならぬのう。
わしは、レース鳩の作出で近親交配という手段を避けての自鳩舎の系統作りは不可能じゃと考えておる。近親交配の繰り返しによる強健性の減退阻止は課題じゃが、小動物などの成功例もあることから、将来的にはレース鳩でも可能となるじゃろう。良き自鳩舎の系統作りのため、失敗を恐れずチャレンジして頂きたいものじゃ。
では次回、近親交配の逆である異血交配について語るとするかのう…。
(この稿続く)