連載2-42、世界の鳩界事情 その十五

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このコーナーは、会員の方からの寄稿や過去に掲載された本誌の記事を元に、伝書鳩及び鳩レースの今昔を鳩仙人の語り口で掲載します。本稿は本誌で連載された「レース鳩作出余話」(83年〜87年連載)を引用・改編しています。

●アメリカ鳩界

アメリカの鳩界は、ヨーロッパの鳩界と同様に古い歴史を持っておるのじゃ。特にアメリカ東部では、立派な長距離レースが開催されておった。
その中でも、日本では地形的に到底のこと実行できなかった1000マイル(1600キロ)レースを、1800年代の終わりから成功していることは、注目に値することじゃ。
アメリカの1000マイルレースといえば、わしらに最もなじみ深いのがインディアナ州フォートウェインの愛鳩家たちじゃ。この地のレース鳩達は、やはりベルギー鳩を基礎とし、A・マール氏によって確立された、アメリカ最古の系統と称されるトレントン系に源を発するとされておる。ヘンリー・ビーチ氏、オスカー・F・アンダーソン氏、C・W・オエテング氏らの努力によって、その素晴らしい性能はついに1000マイルを1日と10時間22分20秒の所要時間で翔破し、分速1024メートルという快記録を樹立するに至ったのじゃ。
また、ペンシルバニア州ピッツバーグのグレンフィールドロフトという鳩舎名で有名なイーリー・エルストン氏も1330マイルレースを含む、多数のレースで好記録を長年にわたって記録し続けた名士じゃ。
これらはいずれも第2次世界大戦前の記録であり、アメリカではすでに当時からこのような超長距離レースが盛んであったことを知ることができると同時に、後のその地域の超長距離鳩達の飛翔性能が、この歴史の重みが示すように非常に困難な長距離飛翔に耐え抜く体質を遺伝的に十分備えていることを物語るものと解釈できるのう。何事もそうじゃが、長い歴史に培われたものには、それだけの素晴らしさがあるものじゃ。
わしは1967年の秋にデトロイトで飛行機を乗り継ぎ、フォートウェインへこれらの鳩達を見に出かけたことがあった。空港では当時のフォートウェイン鳩界の第一人者であったミルトン・ハーフナー氏の親切な出迎えを受け、2日間にわたってゆっくりとこの地の超長距離鳩を手にしながら勉強することができたのじゃ。
また幸運にも、エルビン・ヘラー氏の作翔による1000マイルレース優勝鳩のほか、入賞鳩数羽を分譲してもらうことにも成功し、それらの鳩の性能を自分自身の鳩舎でテストすることもできたのじゃ。
これら両氏の心温まる配慮は、当時を思い起こしてみても、今更ながら改めて深く感謝の念を覚えるとともに、わし自身も同様の心配りを常に持っておかねばならないことを、強く教えられたと感じておるのじゃ。
では次回もアメリカの愛鳩家について、語るとするかのう…。
(この項続く)

 

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