連載2-15、交配について その三
オスマン氏の提言は、その地域で成功している2鳩舎から遅生れの種鳩をそれぞれ数羽ずつ譲り受けて交配するという方法じゃが、これは非常に良い方法であるため、まず成功すると思われる。じゃが、うまく鳩を飛ばすためには飼い方、飛ばせ方も非常に大切じゃ。そこで、種鳩を譲り受けた鳩舎から充分な指導を受け、それを実行することに努めなければならない。それでも、どうしてもうまくいかない時には、種鳩を求める地域の範囲を拡大して、地理的に自鳩舎のコースに似たコースで、素晴らしい活躍をしている鳩舎から同様に遅生まれの鳩を譲り受け、交配してみることかのう。
日本という国は、米国や欧州と違い、山の険しい地形であり、雨が多く長く続く土地でもある。地形によって、日本国内でも飛びやすいコースもあれば、どうしても連なる山を越えなければ帰舎できないようなコースもある。各地域で好成績を残している鳩には、性能上の特性が備わっているはずであるから、自鳩舎のコースの特徴をよく承知して、それに合った鳩舎を選択して種鳩を導入すべきじゃ。
わしがオスマン氏の教訓を述べた中で、最も大切な点はここにある。オスマン氏が鳩を飛ばしていた英国でも、欧州大陸からの種鳩全てが、元いた鳩舎と同様の好成績を挙げてはおらぬ。ご承知の通り、英国では海流の関係でドーバー海峡付近にモヤや霧が発生し、レース鳩の帰還コースの厚い壁となっておる。他の欧州大陸の国において、好天候でのみ良い成績を上げている性能のトリでは、この難関は突破できないケースも多い。日本にあっては、さらにそれに輪をかけたような悪条件が重なる場合も起こり得る。何度も述べるが、ここが非常に大切な点であるから、充分に承知しておいて頂きたいものじゃ。
では次に、譲り受けた種鳩で一応の成功が収められた後、どのように交配を重ねてゆけば良いかじゃ。数組のペアの中で「これは!」と思われる配合はせいぜい一組程度であろう。どれもこれもが素晴らしいというようなケースは稀じゃ。なので、これで良しという交配を残して、他は組み合わせを試行錯誤しながら引き続き作出してみることが寛容じゃな。それもなるべく短期で交配を切り替えて、多数の作出鳩をテストするように心掛けるべきじゃ。やたらに長い時間をかけては無駄に終わることにもなりかねん。
種鳩の作出能力が評価されれば、その後は、これからどのように作出方針を決めていくかじゃ。後世に何々系として永く継承された系統には、必ずといって良いほど近親交配が行われており、それが積み重ねられていることに気付く。逆に、近親交配を避けて、次々と異血交配を行った鳩舎は、いつの間にかその鳩群は世間並みになってしまい、元の系統は影をひそめてしまう場合が多い。とはいえ、近親交配で性能を固定し、好成績を挙げ続けている鳩舎でも、一定の時点で適切な異血の導入を行って活力を蘇らせる努力を払わなければ、結果的に鳩の能力は下降の傾向を示してくるものじゃ。すなわち、レース鳩は閉鎖型の近親交配のみでは性能の向上を望めず、維持するのも困難という訳じゃ。
以上は通則じゃ。今後、この通則を打破する研究努力も必要じゃが、まずはこの通則に則って、上手に作出を行ってほしいものじゃ。
では次回も、交配の話を続けるとするかのう…。 (この稿続く)