連載2-33、世界の鳩界事情 六

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このコーナーは、会員の方からの寄稿や過去に掲載された本誌の記事を元に、伝書鳩及び鳩レースの今昔を鳩仙人の語り口で掲載します。本稿は本誌で連載された「レース鳩作出余話」(83年〜87年連載)を引用・改編しています。

オランダはベルギーと共に、鳩レースが盛んな国じゃ。日本からベルギーやオランダを考えると、全く別の国のようにも思えるが、現実には国境はあるものの、両国間の行き来は自由であると考えて良いじゃろう。その当時の鳩レース界において両国の違いは、ベルギーの方は鳩舎規模が大きかったことかのう。オランダでは、全くの趣味として鳩を飼っておる方々が大多数であった。

では両国間のレース鳩の性能に大きな相違が認められるかというとそうではなく、積極的に鳩の交流は行われておった。戦前はファブリー系がオランダ鳩界で大いに活躍しており、戦後もデルバール系やその他の長距離系の鳩がオランダのチャンピオン鳩の作出に貢献しておった。また両国の国境に近いアーレンドンク村のヤンセン系の鳩が、オランダの愛鳩家の手に渡り、立派な成績を上げておる。さらにオランダ領の南リンブルグ地域は、ベルギーやドイツと境界を接していることもあり、オランダ鳩界の一大愛鳩家集団が育っておった。有名なブラークハウス鳩舎やボイスマン鳩舎もその地域のマーストリヒト市にあった。こちらはベルギーのリェージュからの距離も近く、当然ながら鳩の興隆も盛んに行われ、ボイスマン鳩舎の鳩は、ベルギーのゴーマン系やヤンセン系の流れを受けて作られておるようじゃ。ブラークハウス鳩舎のゴールデンカップルにしても、メス鳩の母はファンネ鳩舎のステッケルボード系となっておる。なるほどブラークハウス系のたくましい体格を作っておる骨格構成は、ステッケルボード系の『アイザーレン号』の影響を強く受け、つくり出されたものと考えられるのう。

さて、わしらがもう一度原点に返って、レース鳩さらにはベルギー以外の各国の鳩について考えた場合、それぞれの国にベルギー原産の鳩の子孫がもたらされておるが、中でも最も強く影響を受け、長期にわたって優秀な系統が導かれた国は、何と言っても隣接しておる国じゃろう。これに関しては大陸ということもあり、島国であるわしらの想像をはるかに超えるほど、多くの優れた系統の鳩の交流が、頻繁に行われておったと考えられるのう。

では「オランダの鳩はベルギーの鳩となんら変わらないではないか」との意見もあるじゃろうが、その国の鳩レースの在り方や愛鳩家の興味の中心についても掘り下げながら、その国のレース鳩の特色を検討してゆく必要があると思うのう。

オランダの長距離レースを考えると、サンバンサンからのNレースを皮切りに、その大多数は南フランスからのレースじゃ。また、ベルギーでは1000キロ以上のレースがバルセロナだけであるのに比べて、はるかに多い。これはやはり、オランダの愛鳩家達の長距離レースに対する興味の在り方が、ベルギーに比べてはるかに大きく強いことを示す証じゃろう。これは今日のINレースにおけるオランダ勢の目覚ましい活躍を見ても、明らかじゃ。

わしが思うに、オランダのレース鳩の祖先には大きくベルギーの鳩が関与しておるが、オランダの鳩レースの在り方が、長距離レースに強い鳩を選択・創造させてきたのだと、感慨深く思ったものじゃ。

では次回も、この話の続きを語るとするかのう…。

(この稿、続く)

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