連載2-11、最良のヒナの生まれ月

このコーナーは、会員の方からの寄稿や過去に掲載された本誌の記事を元に、伝書鳩及び鳩レースの今昔を鳩仙人の語り口で掲載します。本稿は本誌で連載された「レース鳩作出余話」(83年〜87年連載)を引用・改編しています。(イラスト著作/無料イラスト素材 はちドットビズ)

戦前、欧州で出版されたレース鳩の指南書によると、種鳩の配合はあまり早春に行うのは良くないそうじゃ。自然界の変化に適応して野鳥の繁殖の時期に、なるべく一致する交配や作出が最適のようじゃな。なぜならば、野鳥はその年ごとの自然の変化を充分に察知して、繁殖の営みに入るからだと述べられておる。もちろん、早くから暖かくなる年もあれば、寒さがいつまでも続く年もあるから、この理論は的を射たものといえる。

他にも、大勢のCH鳩の飼い主から得たアンケートに基づいて、一番仔からCH鳩が出る確率が最も高いため、1番仔を大切にしなければならないとも述べられている。これも、「なるほど」と納得できる。なぜならば、配合種鳩は仔を産む毎に疲労と消耗が進み、2番仔、3番仔と、ヒナは次第に虚弱化してしまうと考えられるからじゃ。とはいえ、実際のところ、わしらが作出したヒナの体格や成績を検証した場合、必ずしも1番仔の成績が良いとは限らないことに気付くじゃろう。

これは、管理が行き届けば届くほど、ハッキリとわかる。すなわち、種鳩の繁殖に伴い疲労や消耗を極力少なくするよう、万全を期して飼育管理すれば、繁殖を重ねた場合の種鳩の体力の低下などは充分に防ぐことができる訳じゃ。すると、気候と環境の変化による影響の方がヒナの発育成長に大きく作用することとなり、それが成績を左右することに繋がるのではないかと考えられる。そうすれば、自ずと各々の鳩舎が置かれている諸条件によって、何月生まれのヒナが最良のできであり、最も良い成績を残すかを想定できる事にもなる訳じゃ。

一昔前のベルギー鳩界では、多数のCH鳩が早春の1月生まれのヒナから生まれておった。これは、Wシステムでレースを行う場合、レース参加前に作出されるため、1月生まれのヒナが作出羽数の多数を占めること、また保温において、日本よりの数段条件の良い鳩舎で飼育していることが要因として考えられる。翻って日本では、意外にも初夏生まれのヒナが良い成績を上げておることに気付く。これは、日本に防湿、通風、換気の良い鳩舎が多いことが挙げられるじゃろう。すなわち、わしらは保温、梅雨時期の防湿、夏場の通風、防虫といった季節による鳩舎環境に配慮し、四季を通じて換気、乾燥を良くしておけば、何月生まれのヒナが最良などと考えなくとも良いといえるのう。

まあ、最も大切なことは、繁殖に伴う種鳩の体力の消耗をいかに防ぐかじゃ。昨今、若鳩の秋季レース参加が主流のため、早春から作出が行われておることも多いと思うが、種鳩をその後の繁殖の消耗から守るためには、どのような手段を取ればよいか考えねばならん。まず繁殖時、種鳩に与える大きな負担は、何と言ってもヒナを育てる作業じゃ。1回の育雛は2羽より1羽の方が楽であるし、適当に休みが入った方が良いじゃろう。「ならば、仮母に育てさせれば良い」とも考えられるが、そうすると種鳩の乳ビの分泌機能の退化を招く恐れがあるため、やはり産みの親に育てさせる方が良いじゃろう。仮母に抱卵させる場合も、産卵後10日程度は産みの親に抱卵させるべきというのが一般的な考えじゃ。これは、抱卵でのレース参加がオスは産卵後8日程度、メスは10日から12日が良いといわれている点からも、妥当な考え方じゃろう。

最後に、最も基礎的なことをひとつ。それは、育雛中の種鳩に対する充分な飼料と鉱物飼料の補給じゃ。巣房に小さな餌箱を置き、毎朝夕補給してやることが大切になるので、ぜひとも忘れぬようにな。

では次回、ヒナの巣立ちの時期と管理について語るとするかのう。(この稿続く)

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