趣味のピジョンスポーツ 第29回「鳩レースとは、予測するスポーツ」 古田惠一鳩舎
「鳩を知ったのは10代の頃。それからずっと鳩を飼い続けています。今は仕事もリタイアしているので、のんびりと委託で鳩レースを楽しんでいます」。
こう話すのは、兵庫県在住の古田惠一さん(73歳)。同鳩舎は、鳩歴60年を誇る大ベテランです。鳩を飼い始めるきっかけは、小学生の頃、小鳥を飼ったことだったといいます。
「小学5年生の頃、近所の方から1羽の小鳥(十姉妹)を譲ってもらいました。ところが、そのトリを籠から逃がしてしまったんですよ。途方に暮れて、その方にお話ししたところ、『鳩なら逃げても帰ってくるよ』と教えてもらいまして(笑)。それで鳩を飼育し始めたんです」。
当時は鳩ブームのため、友人や近隣の大人たちに鳩を飼っている人も多く、5羽ほど譲ってもらい、リンゴ箱鳩舎で飼っていたといいます。しかし、中学生になって、両親から受験勉強に専念するように諭され、1年間ほど飼育中断。高校生になり、再び飼い始めました。鳩の導入は近所の小鳥屋さん。そこが、鳩レースの道へ進むきっかけになったといいます。
「お店のご主人が、独自団体で鳩レースを行っており、そちらに誘われました。時計がなくても、鳩の帰還は電話の申告で大丈夫ということで、手軽に始められるなと思って。ところが、何度目かのレースで鳩が帰還したことを電話で知らせると『早すぎるから認めない』と。これじゃダメだなと思って、すぐにやめましたね(笑)」。
しかし、すでに鳩レースの虜になっていた古田さん。高校を卒業後、就職したことを機に、地元の阪神連合会(当時)へ入会。本格的に鳩レース道を進み始めます。
「初めて長距離を帰したのは、20代の半ば頃。長万部(北海道)からの1000Kレースでした。系統は岩田系。記録時刻は、翌日の午前中だったかな。会社をさぼって待っていたから、入舎シーンも見ることができましたよ。ちなみに前夜、会社の同僚に飲みに誘われたんですが、断りました(笑)。実はこのトリ、私の作出ではなく、鳩友から譲り受けた種鳩が自鳩舎で卵を産んだんです。系統が岩田系だったので、『これは長距離を帰ってくるんじゃないか』と、なんとなく予感がしていたんです(笑)」。
その後、連盟や連合会の再編などがあり、守口連合会、大神連合会と移り変わるなか、93年に菊花賞400K、14年には地区ナショナル600Kで、それぞれ総合優勝も獲得。キャリアを積み重ねていきます。
「系統は、ダイヤモンドバーカーやフェルテルマン、ヤンセン、マタイスを使っています。14年の地区N総合優勝では、近畿地域の歴代最高分速を記録。いまだに破られていないことが自慢です(笑)。ちなみに、この当時から国際委託鳩舎レースにも参戦し始めました」。
国際委託鳩舎レースでも15年に八郷国際サクセス200Kで第2位、19年には伊賀国際ダービー400Kで第6位(大神連合会として委託)に入賞するなど、好成績を残しています。連合会時代は、連合会長をはじめ、審査や会計といった役職を務め、忙しい毎日を送っていた古田さん。しかし、20年に突然、賛助会員へと移行し、委託レース専門で鳩レースを楽しむことを決めました。
「連合会時代は、再編や合併など大変なことも多く、目まぐるしく時が過ぎていきました。私は、全部で3つの連合会に所属しましたが、役員をしているといろいろと雑務が多くて、純粋に鳩レースを楽しむことができなくなっていたような気がしていたんですよ。そこで古希を迎える前、のんびりと鳩飼育を楽しむため、賛助会員に移りました。今でも鳩友から、『もう一度、連合会に戻らないか』と誘われることも多いですが、断っています。自分のペースで鳩を飼育できる環境が心地良いですからね」。
委託レース専門に鳩レースを楽しむようになって2年。自身の作出鳩を鳩友の鳩舎や国際委託鳩舎へ預けていた古田さんは、2022年度の「伊賀オータムカップ200K」で第4位に入賞。目に見える形で、結果が出ました。
「作出や飼育のやり方は、連合会時代と変わりません。昔から鳩の目を研究していたので、配合時は鳩の目に注目しますね。例えば『目ぶちに茶色の線が入っていれば種鳩に、そうでなければ選手鳩に』といった具合です。餌では、親鳩もヒナ鳩も大粒を主体に与えています。食べる様子を観察しながら、大粒から食べるヒナは内臓が強いと判断し、優先的に委託しています」。
当面の目標は、八郷・伊賀の両国際委託鳩舎での最終レース参戦。その後、各レースの優勝やアベレージ賞も狙っていきたいという古田さん。最後に、鳩レースの醍醐味を聞くと…。
「ピジョンスポーツは、自分の頭で考え、予測するスポーツだと思います。自分が見初めた(マークした)トリが一番手で帰って来る、これほど嬉しいことはありません。今は委託レース専門なので、よりその感覚が強いですね。そろそろ終活も考える年齢ですが、まだまだ鳩飼育を頑張っていきたいです」。
鳩歴60年を誇る大ベテランが見せる鳩レースへの気概。これからも素晴らしいピジョンライフを送ってほしいものです。