趣味のピジョンスポーツ 第31回「鳩への愛と優しさに満ち溢れた暮らし」 渥美富彦鳩舎

22年度八郷国際委託鳩舎シリーズで優勝を含む、4度のベストテン入りを果たした渥美鳩舎。
今回、ご登場いただくのは、宮城県にお住いの渥美富彦さん(63歳)。小学生時代、近所の方が保護した鳩を譲ってもらったことが飼育のきっかけという同鳩舎。委託レース専門の賛助会員となってからは、早や四半世紀以上が経つといいます。諸事情により鳩飼育を諦めかけたこともありましたが、鳩友の助けで現在まで続けることができ、今年の八郷国際委託鳩舎シリーズで、4度のベストテン入賞を果たしました。そんな渥美さんのピジョンライフを覗いてみると…。

「レースに参加しているのは、全て石巻連合会の新田孝揮さんが作出したヒナ。一度、鳩飼育を断念したのですが、おかげで今も鳩レースにかかわることができています」。

こう話すのは、宮城県で建設会社を経営する渥美富彦さん(63歳)。今シーズン、八郷国際委託鳩舎において、国際ウィナー300Kの優勝を含み、2羽で4度の入賞を獲得されました。見事な成績を残された渥美さんですが、その要因はどこにあったのでしょうか。

渥美さんと鳩の出会いは、小学5年生の時。傷ついた鳩を引き取ったことだといいます。

「近所に狩猟が趣味の方がおられたのですが、ある時、銃で撃たれて傷ついた鳩を保護して。脚環が付いたその鳩を見て『可哀そうだから、飼ってあげたい』という気持ちになり、譲ってもらったんです」。

「傷ついた鳩を助けたい」という思いで飼い始めた鳩。それはやがて「鳩レースをしたい」という思いに変わっていきます。そして高校生の頃、日本伝書鳩協会・石巻支部へ入会。本格的に、鳩レースの道へと足を踏み入れました。

「同じ会の先輩に鳩のイロハを教えてもらい、手探りで鳩レースを学びました。一生懸命に頑張ったけど、短距離レースしか帰せなかったなぁ」。

家業の建設会社に就職し、社会人となった後は当協会の石巻連合会へ入会します。

「最高成績は、400K連合会2位。まだ時計の時代で、鳩が鳩舎に帰ったらブザーが鳴るようにしていたんですよ。ところがその日に限ってブザーが壊れて、いつの間にか鳩が帰ってて(笑)。慌てて時計を持って行ったら2位。差は僅かだったから、ひょっとしたら優勝できていたかも。悔しい思い出ですね(笑)。当時は750Kまで帰したことがあるけど、900K以上はダメ。長距離レースを帰すことが夢でした」。

20代の青年期、鳩と共に歩んでいた人生ですが、30代半ばに転機を迎えます。家業の建設会社の代表だった父親がリタイヤ。渥美さんが跡を継がなければならなくなりました。

「忙しくなり、満足なレースができなくて。飼育を断念しようかと思ったけど、飼っている鳩たちに愛着があって、踏み切れなかった。それで『委託レースならできるかな』と」。

その後、連合会を退会し、賛助会員へ。仕事への負担が少ない委託レースで、渥美さんは鳩飼育を続けることになります。ところが、今度は別の問題が浮上することに…。

「鳩舎が、蛇に襲われるようになって。何度も駆除しましたがダメ。親鳩は怖がるし、卵は取られるし、どうにもなりません。生まれたばかりのヒナが襲われるのが、可哀そうで仕方がなかった。それで飼育を断念したんです」。

種鳩を全て人に譲り、大好きな鳩を飼えなくなった喪失感を抱きながら、暮らしていた渥美さん。元の連合会の仲間で、行きつけの床屋の店主だった前述の新田さんに、つい愚痴を漏らしたところ、思わぬ助け舟を出してくれたそうで…。

「事情を聞いた新田さんが『自分が作出した鳩で良いなら、委託レースをしてみたら?』と言ってくれたんです。本当にありがたいこと。それから毎年、新田さんが作出したヒナを4羽ほど選ばせてもらい、国際委託鳩舎に委託しています。選ぶ時、血統はわかりません(笑)。見た目で、胸高のスピードバード系のメスっぽいトリを選ぶようにしています。インスピレーションですね。まあ、成長後に見たら、全然イメージと違う場合も多いですけど(笑)」。

その後、14年には八郷国際ダービー400Kで第2位に入賞。そして今シーズン、2羽の入賞鳩(200K7位・300K優勝、300K5位・700K5位)が誕生し、新田鳩舎作・渥美鳩舎委託のコンビで、ブレイクしました。

「初めての優勝ですから、そりゃ嬉しかったですよ。新田さんの作った鳩が素晴らしかったということでしょうね。700K5位のトリは相談の上、種鳩として引き取りました。長距離を帰すのは夢でしたが、せっかく頑張ったのに落ちちゃうのは、可哀そうだから(笑)。来年以降、その直仔で900Kを目指します!」。

「鳩レースを続けられるのは、新田さんのおかげ」と感謝を述べる渥美さんですが、実は自鳩舎に2羽だけ、レース鳩を飼っているのだとか。

「観賞用に2羽のオスを飼っています。作出せず、ただ眺めているだけ。子供の頃からずっと飼っているから、私にとって鳩は家族のようなもの。傍にいるだけで安心なんです」。

この時、ふと子供時代に保護した鳩のことが気になり聞いてみると、次のような答えが…。

「保護してから10年間ほど、元気に生きていましたよ。最後は、穏やかな表情で天寿を全うしました」。

子供の頃から変わらない鳩への愛情、優しさに満ち溢れたピジョンライフを送っている渥美さん。これからも愛する鳩と一緒に、素晴らしい人生を送って行かれることでしょう。

委託鳩の作出を担う新田孝揮さんと。
鳩舎の全景。
いまでも2羽だけは渥美さんと生活を共に。

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