趣味のピジョンスポーツ 第26回「感動と驚きの連続、初めて尽くしの鳩レース」 菊田 功鳩舎
「最初に入賞の知らせを聞いた時は、嬉しいというよりもパニックになってしまいました(笑)。なにしろ初めての鳩飼育からたった6年目でしたから。レースのシステムさえ、まだよくわかっていなかったんですよ」。
茨城県で鳩飼育を楽しむ菊田 功さん(70歳)は、こう国際委託鳩舎の初入賞を振り返ります。同鳩舎は、わずか鳩飼育6年で八郷国際CH900K第6位、さらにはアベレージ協会賞全国1位を獲得したのです。この快挙は、どのようにして成し遂げられたのでしょうか。
「子供の頃から動物が好きだった」という菊田さんは、家業が農家だったこともあり、様々な動物に囲まれて幼少期を送ります。飼っていた動物は、主にしゃも、ニワトリ、うさぎといった小動物。レース鳩のことは知っていましたが「近所に飼っている人もいなくて、さほど興味を持っていなかった」とのこと。
学生生活を終え、家業の農家を継いだ菊地さん。同氏が鳩を飼い始めるまでには、この後、実に40年以上の歳月が流れます。そのきっかけは、日常の些細な風景でした。
「近所の方が鳩を飼っており、いつも朝と夕方にたくさんの鳩を飛ばしていました。『迫力があって凄いな』と思って、興味を持ったんですよ。そこで、その方に話を聞いてみたんです。すると『鳩に興味があるなら、手伝うから飼ってみれば』と誘われて(笑)」。
その方は、関東南部連合会所属の並木茂雄さん。長距離レースを得意とする東坂東地区連盟の強豪鳩舎です。菊田さんは、まず1羽の白鳩を購入。その他、並木さんから数羽の種鳩を無償で譲って貰いました。この時、62歳だったといいます。還暦を過ぎるまで人生経験は積んできましたが、鳩飼育は初めての経験。給餌の仕方、鳩舎作り、投薬といった鳩のイロハは、全て並木さんがサポートしてくれたといいます。
「最初は何をすれば良いのか、さっぱりわからなかった。餌をやろうと扉を開けたら鳩が逃げ出すなど、失敗ばかり。その度にアドバイスして頂いて、本当に一から十まで、並木さんにお世話になりっぱなしでしたね(笑)。でも、初めて舎外で鳩がきちんと鳩舎に戻ってきた時は、嬉しかったなぁ」。
当初は失敗の連続でしたが、徐々に鳩飼育にも慣れ、作出や舎外も一通りこなせるようになりました。となれば、次の興味は当然、レースへの参加。しかし、連合会員として自鳩舎レースを行うには年齢的にきついと感じていた菊田さん。鳩レースは諦めようかと思っていたところ、並木さんから国際委託鳩舎で行われる委託レースのことを教えて貰います。そして飼育4年目となる17年度レースから、八郷国際委託鳩舎レースに参加を決めました。
「鳩飼育もそうでしたが、鳩レースもこの時が初めての経験。まだレースのシステムさえ、わかっていなかったころでしたけど、とてもワクワクしたことを覚えています」。
その年、いきなり「八郷国際ウィナー300K」で賛助会員序列10位に入賞。しかしながら入賞したことを知らず、本誌での血統紹介のための血統依頼で、その事実を知ったのだとか。また、序列のインターネット速報があることを聞きましたが、菊田さんはスマートフォンもパソコンも持っていません。そこで東京都に住む娘さんに頼んで、各レース日の夕方に序列をプリントした紙をFAXで送って貰っていたそうです。
さて翌年の18年度には8羽を委託して、300Kで賛助会員序列5位に入賞。2年連続して入賞を果たしたことにより、レースの面白さを実感したようで、早くレース結果が知りたくなり、娘さんから電話で結果を教えてもらうようにしました。そして19年にも再び8羽を委託。そのうちの1羽が500K38位、700K15位と順調に帰還し、初めて最終レースである「八郷国際CH900K」にエントリーが叶います。
「900Kの帰還なんて、自分にとっては夢の世界。もちろん血統が良いので少しは期待していましたが、まだ委託歴3年目なので、さすがに無理だろうと(笑)」。
レースは当日唯一羽帰りで優勝が決定。2日目に19羽が帰還。そのうちの1羽が菊田さんのトリでした。
「当日は帰還が1羽だったので、『やっぱり駄目かな』と諦めムード。でも翌日、並木さんから電話をもらい、ご自身の東日本CH参加鳩が帰還したと聞き、期待感が増しました(笑)。するとそのすぐ後、娘からの電話で6位入賞したことを知りました。まさかベストテン内に入賞しているなんて、夢にも思いませんでしたよ」。
初めての最終レース帰還、ベストテン内入賞と、立て続けに嬉しい知らせを受け取る中、さらに菊田さんを驚かせる朗報が届きます。なんと、そのトリがアベレージの協会賞で1位を獲得したのです。
「嬉しかったけど、あまりの急展開にどうして良いかわからなかった(笑)。総合表彰式にも受賞者として参加しましたが、周りを見ると、有名鳩舎ばかり。自分がここにいていいのかと不思議な気持ちになりました(笑)」。
まさにシンデレラのような展開で、ヒーローになった同鳩舎ですが、「自分が鳩レースをできるのも賞を取れたのも、全て並木さんのおかげ。本当に感謝しています」とのコメントでもわかるように、その人柄はいたって謙虚。そんな菊田さんに鳩の魅力を伺うと…。
「レースを始めてみると、鳩の能力にビックリ。1000キロ近くも離れた長距離を帰ってくる体力や帰巣本能には感動しますね。自由に大空を飛べない人間である自分の代わりに、飛んでくれているかのように感じています。でも、途中で失踪してしまうのは、やはり可愛そうで…。順位はどうでもいいので、とにかく無事に帰還して欲しいですね」。
鳩レースを通じて、たくさんの感動と喜びを感じた菊田さん。これからも素晴らしいピジョンライフを満喫してくださいね。