趣味のピジョンスポーツ 第24回「鳩を愛して半世紀、帰ってくれるだけで満足」 山下佳垂鳩舎

国際委託鳩舎でベストテン入りした2羽の母鳩を掴む山下鳩舎
今回、ご登場いただくのは、愛媛県にお住いの山下佳垂(かたる)さん(68歳)。高校生の頃、レース鳩に興味を持ち、20歳からレースの世界へ飛びこんだ同鳩舎。地理的条件からなかなか結果を出せない日々が続きますが、鳩への情熱は失うことなく、還暦前に賛助会員となり、委託レース専門で楽しむことにしたといいます。作出に試行錯誤を続けるなか、一昨年、ようやく伊賀国際委託鳩舎シリーズで初のベストテン入りを果たしました。果たして、山下鳩舎のピジョンライフとは…。

愛媛県の南部、海と山に囲まれた南宇和郡愛南町。温暖な気候で農業、水産業が盛んな暮らしやすい地方ですが、鳩レースを行うには、町の大部分を山地が占め、そのまま海に落ち込むリアス式の複雑な海岸線の地形で、四国地域の最遠距離ともなるため、非常に厳しい地域です。

こちらで約半世紀の間、鳩飼育を続けているのが、山下佳垂鳩舎(68歳)。現在は賛助会員として、委託レース専門で鳩レースを楽しんでいらっしゃいます。

「自鳩舎レースでも委託レースでも、基本的にレースに対する考え方は変わりません。とにかく帰還が厳しい地域でレースをやっていたもので、帰ってきてくれるだけで嬉しいんですよ」。

鳩との出会いは高校生の頃。近所の先輩や友人たちが鳩を飼っていたのを見ている内に、自分も飼いたいと思いましたが、レース鳩は高価なため、捕まえたドバトを数羽飼育したそうです。「いつか血統書付きのハトを飼ってみたい」との願いが叶うのは、数年後。地元にあった当協会の単独クラブ「宇和島ピジョンクラブ」(後の宇和島連合会)へ本物のレース鳩を見せて貰いに行き、数羽を譲って貰いました。

「最初に本物のレース鳩を見たときは『大きくて奇麗だな』という印象。掴んだ時のしっかりした骨格や長い羽根など、自分が飼っていた鳩とは全く違っていました」。

高校を卒業後、家業である八百屋さんを継いだ山下さんは、20歳の時に同クラブへ入会。自宅2Fのベランダに半坪ほどの鳩舎を作り、憧れの鳩レースに参戦することになります。最初は秋の100Kレース。2羽出して全鳩が帰還。続く200Kレースでも帰還し、あっという間に鳩レースの虜になったといいます。

「自分の育てた鳩が帰ってきてくれるのが、本当に嬉しくてねえ。でも、次の300Kが鬼門でした。瀬戸内海を越える海越えレースとなるため、なかなか帰せなくて、苦労しましたよ」。

帰還が厳しい地域ですが、地元の鳩友たちと、鳩質を研究したり、こまめな訓練をするなど協力しながら、山下さんは鳩三昧の日々を送ります。「レースではほとんど勝ったことはなく、鳴かず飛ばず(笑)」といいますが、楽しい毎日だったといいます。

しかしながら、住環境、そして会員の高齢化の影響などもあり、所属連合会が解散。山下さんは他の連合会へ移籍しますが、猛禽類の影響などでレースに参加できる状態ではなくなったそうです。

20羽作出しても訓練で数羽にまで減ってしまいます。残った23羽でレースに参加しても全く帰還しません。何とか頑張って続けていたんですが、これはもう(自鳩舎でのレースは)無理だなと判断しました」。

一旦、レースを諦めた山下さんでしたが、何としても鳩飼育は続けたいとの強い思いから、賛助会員へと移籍。この時、50代半ばでした。

「国際委託鳩舎レースには八郷と伊賀がありますよね。連合会員時代にも八郷鳩舎へは、何度か委託したことがあるんですよ。でも全く結果が出ていない。さすがに色々と考えましたよ(笑)。その結果、私の使っている鳩質や系統が関東地域のレースでは、地形的に合わないのではないかと考えたんです」。

山下さんの使っている系統は、今西系など在来系の血が多く入った地元の飛び筋。厳しい地形でも帰還できるよう、粘りのある鳩質に仕上げていました。関東地域のレースである八郷シリーズは、レーサーたちは開けた平野を飛翔するため、スピードのある系統が必要。山下さんの主力系統とは合いません。一方、伊賀シリーズならば、これまでも粘りのある系統が結果を出しており、帰還コースも四国地域を重なる部分があります。「伊賀なら、自鳩舎の鳩質が合うんじゃないか」と考えた山下さんは、伊賀シリーズに照準を合わせて委託していきます。

そして、ついに「19年度伊賀国際ウィナー300K」で第7位に入賞。初のベストテン入りを果たします。

「結果を知ったのはドライブ中。私が運転していたので、妻にスマホで見て貰ってたら、『名前が出とるよ』といわれ、『えらい速いなぁ』と(笑)。まさかベストテン入りしているとは思わなかったので、ビックリ。それまで賞とは無縁だったので、賞状が届いたときは本当に嬉しかったですね」。

その後、昨年行われた「伊賀オータムカップ200K」でも第9位に入賞。近年になり、好調が続いている山下さんですが、その思いは至って謙虚です。

「やはり血統が合っていたのではないかと思います。これまで本当に厳しいレースを行っていたので、帰ってきてくれるだけでありがたいですよ。少し欲を言えば、レースでの距離が伸びないのが悩み。できれば最終レースまで残って欲しいなぁ」。

今年も八郷に5羽、伊賀に6羽委託しているという同鳩舎。最後に鳩レースの魅力を伺うと…。

「帰還する瞬間を見るのが、鳩レースの最大の醍醐味。本当のことを言えば、やはり自鳩舎でレースがしたい。でも今の時代、委託でしかレースができない人が多くなっていますよね。委託は配合を考えるのが全てだと思います。調教や訓練をしなくてもいいので、私のような怠け者には、最適かもしれません(笑)」。

厳しい地形的条件にも負けず、鳩を愛し続ける山下さん。これからも良きピジョンライフをお送りください。

鳩舎の全景
山下さんが住む地域は、温暖な気候ながら海と山に囲まれた鳩レースには不利な地形。

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