最南端の地・沖縄鳩レース界から学ぶ、日本鳩レース界の興隆!

会員の高齢化及び減少といった問題を抱える日本鳩レース界。会員の減少は連合会の運営にも直接的に響いてくるため、全国のどの地域もこの点に関しては悩まれているところでしょう。そのような中、国内最南端の地・沖縄鳩レース界では、様々な取り組みを行い、負担の軽減を図っています。同地は地理的な理由から海上レースを余儀なくされるため、帰還の困難さ、経費増など、他の地域よりもレース運営に大きな負担が圧し掛かります。通常ならば会員の減少が否めないところ、逆に会員数は増えているというのです。そこで今回、沖縄3連合会の各連合会長にアンケートをお送りし、沖縄鳩レース界の現状を探ってみました。同地で行われている様々な工夫、そして意見は、必ずや全国各地の連合会運営のヒントになることでしょう。

●地形面、経済面での厳しさ

沖縄県内で当協会に所属している連合会は、沖縄連合会(知花紀安連合会長)、琉球連合会(新垣良行連合会長)、宮古島連合会長(仲間俊克連合会長)の3つ。いずれも西九州連盟の所属ですが、地理的な理由から連盟レースは行えず、連合会レースのみ実施。島ならではの諸事情、そして海上を帰還コースとする特殊なレースとなるなど、他の地域とは様々な違いがあります。

まず、沖縄地域で鳩飼育を行うには、餌や鳩用品の輸送費が高額であることがネックとなっているようです。「餌代より輸送料の方が高くつく」といったこともしばしば。他の地域の倍額は掛かるようです。また、ワクチンなどの薬は当協会から購入されるケースが多いのですが、テロ対策のため、現在は飛行機での輸送が不可。船便となり、届くのに1週間近くかかる場合もあります。この根本的な問題に関しては、鳩友同士での共同購入や地元のペットショップに購入を依頼といった方法で負担減に努められています。

また、沖縄は出生率が高く長寿な土地柄。さらに昨今は他県からの移住も増えているため、人口が増加。マンションなど住宅建設も増えています。特に、那覇市周辺は住宅の密集地となっており、舎外も難しく、鳩飼育を行うにはご近所付き合いが大切になるようです。この辺りは、他の地域も同じですね。

レース運営においては、沖縄連合会と琉球連合会が、北コースで100K・300K・600K(羽数が残れば800K)、宮古島連合会は、西コースで100K・200K・300K(羽数が残れば北コースで600K)を実施しています(図を参照)。

沖縄連合会・琉球連合会のレースコース

宮古島連合会のレースコース

時期は春季レースが12月~2月(沖縄・琉球)と4月~6月(宮古島)、秋季レースが9月~11月の開催。海上を飛翔するという特殊な条件のため、競翔担当者が最も気を遣う点は風向き。海上での風は非常に強く、陸上で風速3~5mでも、海上では10~15mに達します。風向きが悪いと、台湾や中国で迷い鳩が保護されることもあるそうです。その上、本土の春季レース時期(2月~5月)は風向や気圧が目まぐるしく変わるそうで、霧(モヤ)も発生します。そのため、比較的、気象条件が落ち着く12月~2月に行われています。とはいえ、その時期でも天候は読み辛く、台風の影響もあり、日延べや放鳩待機は当たり前。放鳩時間が数十分違っただけで帰還率や分速がまるで変ってくるため、大変苦労されるそうです。帰還率は300Kでも良くて3割。全滅に近いレースも多々あります。ちなみに、北コースの沖縄連合会と琉球連合会では北東の風向、西コースの宮古島連合会は南西の風向が良いとのこと。琉球連合会では帰還率が悪い時には、その原因を徹底検証。放鳩条件の研究を積み重ね、近年は300Kで平均4割の帰還を実現。鹿児島県からの600Kを5年連続して当日帰還、今年は宮崎県日向市からの800Kで2羽の翌日帰還を実現させています。

レース時の鳩輸送は船便、もしくは飛行機輸送のみ。当然、陸上輸送に比べて経費がかかります。また、短距離でも日延べが多くなるため、その分の経費も割増。琉球連合会では、レース日程が持ち寄りから放鳩まで早くて4日間だそうです。そのため、放鳩を委託しています。また、宮古島連合会でも、100Kは輸送船の従業員に放鳩を委託するなどして、経費削減に努めています。 

放鳩地に到着したレーサー達。沖縄では、レース時の鳩の輸送は船便か航空便のいずれかで行われる。

昨年12月10日に開催された鹿児島600Kの放鳩シーン(琉球連合会)

●会員獲得のための様々な試み

前述のように、鳩飼育・レース開催に非常に負担が掛かる沖縄鳩レース界。沖縄地域の会員の平均年齢は50歳代前半(沖縄)、45歳(琉球)、40歳代前半(宮古島)と、他の地域に比べて若い世代が主流となっています。沖縄では平均年収が他の地域に比べ下位にランクされていることも踏まえて、その上に“子育て世代”ともなれば、鳩飼育には経済面で厳しい部分が多々あることでしょう。全国的にも悩みの種である会員の減少は、至極当然と思われがち。ところが…。

現在、同地域の会員数は沖縄・宮古島の両連合会は25名前後で横ばいと全国的にも平均値。琉球連合会に至っては、ここ数年増加傾向にあり、48名の会員が在籍。これは全国的にも大規模な連合会です。会員減少を食い止め、逆に増加させている秘密は、一体どこにあるのでしょうか?

琉球連合会では、前述のようにレース帰還率向上への取り組みや「レース鳩」誌への広告掲載といった広報活動で、会員のモチベーションをアップさせています。その他、鳩レースへの理解を深めて貰い、新規会員を獲得するため、毎年、地元の小・中学校の運動会などイベントで放鳩協力を行っています。昨年は5校で実施し、その放鳩を見て、子供の頃に鳩を飼っていた方が入会された例もあります。

また、同地では連盟レースができないこともあり、常に連合会で楽しいレース企画を考えています。例えば、大規模鳩舎が有利にならないよう、1鳩舎の参加羽数を限定した「100Kスピードレース」の実施、各クラブ300K以上のレース10位までの序列ポイントを合算して競う「クラブ対抗レース」といった様々な企画を独自に設定しています。

なお、同連合会では「トラブルが会員数の減少を招く」と考えており、会計面は全てオープンにし、問題が発生した時は早期解決をはかるよう、心掛けているそうです。もちろん、役員の中に自己の都合や利益を考える方は皆無とのこと。沖縄地域には、ペットとして鳩を飼っているだけの方も多いため、自宅へ訪問してレースの紹介、そしてレース中断組への呼びかけも欠かさないそうです。

その他、沖縄連合会では、連合会の懇親会を月1回のペースで実施。宮古島連合会では春季レース表彰式をバーベキュー形式で行うなど、会員が楽しくコミュニケーションを取れる努力を行っています。両連合会とも、そのイベント時に鳩飼育に興味がある一般の方々にも参加を呼びかけ、鳩レースの紹介・入会の勧誘も行っているようです。

 

―このように沖縄地域の会員の皆さんは、経済面、地理的な条件面と、様々な困難を抱えながら、その“情熱と知恵”で鳩飼育、そして鳩レースを行われています。現在、全国的に会員の高齢化や減少に悩む日本鳩レース界ですが、その解決方法は鳩レースに関わっている我々自身が見つけ出すしかありません。過去に沖縄鳩レース界では、600K初制覇のレース(1980年秋)で地元新聞社と協賛し、半面の新聞広告を出したことで一挙に会員を増やした実績があります。また当協会としても、前回の東京五輪では開会式に大規模な放鳩セレモニーを行ったことで、国内に一大鳩レースブームを巻き起こしました。いずれも“どこかでだれかが”行ったことではなく、鳩レース界の先人達が努力を重ねられた結果です。当時とは時代も変わりましたが、個々の会員の皆さんが知恵を出し合って努力すれば、必ず道は開けるはずです。どのような組織でも、それぞれに様々な問題を抱えているもの。これからの日本鳩レース界の興隆に向けて、皆さんで頑張っていきましょう!―

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