ペットを飼うといえば、ワンちゃん、ネコちゃん、ウサギさん・ハムスターといった小動物、またインコや文鳥といったトリさんを思い浮かべる方が多いでしょう。最近では、ヘビやトカゲといった爬虫類を飼いたいという方もいますね。
「でもせっかく動物を飼うなら、人とは少し違ったペットを飼ってみるのも面白いかも…」と思ったあなた、ここでおススメするのは、皆さんおなじみのハトです!
「ハトってあの公園にいる…」と思われた方、実はハトにはたくさんの種類があり、ペットとしてお勧めするのは、由緒正しき血統を持ったレース鳩(伝書鳩)。
元々、ハトは帰巣本能を持っていて、きちんとした手順を踏んで飼育すれば、自分の家(鳩舎)へ帰ってきますし、また、自身でブリード(作出)したヒナを鍛え上げることによって、ピジョンスポーツ(鳩レース)にも参加できます。
ピジョンスポーツは世界中で盛んに行われており、海外の大きなレースで好成績を挙げたハトには、種鳩(競馬でいえば種牡馬)として、1羽数千万円の値段が付くことも!
そんな魅力満載のハト飼育。ここからはハトを飼う前の準備について、お話しします。
●配合と作出
鳩小屋と道具、餌の購入など一連の作業が終わったら、いよいよ子供を産ませる準備の始まりです。
ハトの仔作りのためには、まず当然のことながら、オスとメスのハトを用意しましょう。2羽のハトをつがいにすることを鳩レースの世界では「配合(はいごう)」、または「交配(こうはい)」、子供を取ることを「作出(さくしゅつ)」と呼びます。
ちなみに、複数羽を飼っている場合、何羽かのオスとメスを一つの小屋に入れ、お互いに好きな同士が一緒になるようにする方法を「自由配合」といいますが、血統を重視する鳩レースの世界では、この方法は偶然に頼ることになるので、あまり行われていません。
趣味でハトを飼う場合、レースを行うなどのたくさんの楽しみがありますが、その中でも、「配合」と「作出」は、愛鳩家の大きな楽しみの一つとなっています。ハトの仔作りはレースに参加するつもりがなければ、特別に考慮することは少ないと思いますが、ここでは鳩レースに参加することを前提として、配合・作出の基本的な理論をもとに、説明を進めていきます。
さて、どのような交配によって、どのような仔鳩が生まれるのか。愛鳩家や鳩のレースマンは必死になって研究しています。なぜならば、良い仔鳩を作出しなければ、レースに勝つことができないからです。より良い仔鳩を作出するためには、遺伝学の知識や先人の優れた交配方法を探求することも必要です。
配合する前には、まず種鳩を選ばなければなりません。種鳩に必要な条件としては、1「健康なハトで耐病性に優れていること」、2「体形が良いこと」、3「優秀な能力を持っていること」、4「強い遺伝能力を持っていること」などですが、3と4の条件は外観では判断できないため、ハトの血統書から推察します。
競走馬の世界では、「サラブレッドはサラブレッドから」ということが常識になっていますが、血統を重視するハトの世界でも同じことです。これは遺伝の重要性を示している証で、種鳩を選ぶには、「少なくとも一代、二代前に優秀な成績を残したハトがいる」、「一族に優秀なハトを生み出している」といった系統を選ぶ必要があります。また配合には、「近親」(血縁関係で交配)と「交雑」(血縁関係の無い交配)とがあり、愛鳩家はこれをうまく織り交ぜて、優秀な仔鳩を作出しています。
では以下に、いくつかの交配法について、紹介します。
一、 同系交配(inbreeding)
「近親交配」ともいい、血縁のある同士の配合をいいます。親×子、兄×妹、祖父母×孫の配合を最高度、叔父×姪、孫同士の配合を高度、それよりも遠い血縁関係の配合を中度と分ける場合もありますが、ハトの血統書には、これが何度も繰り返されているケースもあり、何重近親といった表記が良く見られます。
この交配はメンデルの法則のF2にあたる配合で、同じ形質を分離固定する方法です。
同系とか近親とかいうと、同じようなハトができやすい交配法と誤解されやすいですが、実際は祖先の様々な形質が分離して現れるので、逆に親と異なったハトが生まれる可能性が高いです。
これを系統分離といいますが、最終的に固定された形質は、遺伝的に同質となるため、優性の遺伝が現れてきます。マウスなどでは、こうして作られた純粋種がいますが、ハトの場合、非常に困難なため、失敗することが多々あります。
わかりやすく言うと、うまくいけば非常に優秀な子供が生まれますが、その可能性は低く、奇形や劣性遺伝で体の弱い個体になる可能性が高いということです。
愛鳩家の皆さんは、この「近親交配」を適度に利用しながら、良い仔鳩を作出しています。
二、 純粋繁殖(pure breeding)
「近親交配」の一つなのですが、こちらは「近親」と「交雑」の中間になる配合法で、ハトの世界ではイギリスやアメリカで良く行われている方法です。これは同一品種内でなるべく血縁の遠いもの同士を配合し、品種の特徴を維持する目的で行われています。
例えば、アメリカで改良されたハインツマン氏のシオンとフランスのロベール・シオンは、ともにポール・シオンを源としていますが、これらの間の配合は、この交配法に分類され、純シオン系と呼ばれます。
有名なアメリカの愛鳩家、ホイットニー博士のヒュースケン系、ファンリール系の交配は、同系交配のものが多く、体形的には様々な変異を示したものが多くみられました。
三、 異系交配(crossing)
「交雑」といわれる異なる品種の交配や同一品種内でも特徴の異なるこの同士の交配のことです。ハトの世界では、系統の異なった血縁関係の全くないもの同士の配合で、愛鳩家はこの交配法を「異血を入れる」といいます。
メンデルの法則ではF1にあたり、表現型としては、むしろ同一の形質を示します。遺伝学的にこのF1は、両親よりも強健で成長も早く、雑種強勢とも呼ばれます。これは、両親の優良な因子が結合するためとも考えられ、ハトの場合もしばしば良い結果を示しています。
ベルギーなど鳩レースの本場では、初期のレース鳩の形成には、主にこの方法がとられたようで、「近親交配」や「純粋繁殖」と織り交ぜながら、品種の改良を進めてきたようです。
前記の3つの方法ですが、いずれにしても一長一短があり、どちらか一方に偏りすぎると、失敗する恐れがあります。自分の選んだ種鳩が、どのような交配法で作出しているかを血統書から読み解き、極端な「近親」なら遠い血縁を交配(純粋繁殖)するか、「交雑」するように考えた方が良い結果を生むでしょう。
色々なことを考慮しながら配合しても、そのすべてが良い結果を生むとは限りません。逆に「自由配合」のような偶然の交配が良い結果を生む場合もあるかもしれません。また、いかに系統を研究し、種鳩を選んでもその子供が優秀なレース鳩であるかどうかは、レースに出してみなければ、その成果はわかりません。
しかし、苦心して考えながら作出した仔鳩が、レースで期待に応えてくれた時の喜びは最高です。自分だけのハトを作るという「配合」と「作出」は、ハトを飼う上の大きな楽しみなのです。
もちろん、ハトを1羽のみ飼っている場合は、この作業はできませんが、仔作りはハトの特性である帰巣本能、舎外・訓練、鳩レースといったハトを飼う楽しみを増やす上で、鳩飼育には欠かせません。ぜひとも、つがいの種鳩を厳選して、自分だけの鳩作りにチャレンジしてみてください。
(第6章へ続く)