ハトを飼ってみよう!-ブリード(繁殖)からレースまで、新しいペットの楽しみ方ー 第1章.ハトの種類と歴史
●ハトの種類と飼育の楽しみ
日本国内にいる野生のハトは、主に「キジバト」・「アオバト」・「シラコバト」・「カラスバト」・「ベコバト」・「キンバト」の6種類。では公園にいるハトは、どの種類に属するのでしょうか。
実は公園にいるハトは、「ドバト」といって主に中央アジアやアフリカ、ヨーロッパに生息する「カワラバト」の家畜品種。前述の6種類のように在来種ではなく、外来種とされているため、野生のハトと分類されないこともあります。
よく「公園にいるハトを勝手に捕獲や駆除をしてはいけない」といわれますが、これは「ドバト」を含む野鳥類が、鳥類保護法で守られているため。ちなみにポーター、フリルバックといった見た目が多彩で派手やかな観賞用のハトも、この「カワラバト」が品種改良されたものです。
さて、皆さんにおススメするペットのハト(レース鳩)は、この「カワラバト」の一種。「な~んだ、そこいらにいるドハトを飼うのか…」と思うなかれ。レース鳩はきちんとした血統を持っており、飼い主が鍛えれば、素晴らしい身体能力を発揮して、1000キロも離れた場所からあなたの下へ帰ってきます!
また鳩レース以外にも、見た目の美しさを競う鑑賞鳩やレース鳩の「品評会」、海外では「ホッホフリーガー」(ハトの垂直高度や滞空時間を競う競技)や「タンブラー」(宙返りするハトを楽しむ競技)といった様々な競技もあり、ほかのペットとは一味違った楽しみ方ができます。レース鳩を飼育・馴致・訓練することは、競馬でいえば、種牡馬の選定からブリーダー(作出)、トレーナー(調教師)まで、全てを一人で行えることになり、充実したペット飼育になること間違いなしでしょう!
●ドバトとレース鳩の違い
では、レース鳩と公園などで見るドバトとの違いは何でしょう。レース鳩はもともと、カワラバトを馴らして通信手段に使った伝書鳩。数世紀にわたり、改良が行われており、帰巣本能と飛翔能力が、格段に飛躍しています。
帰巣本能とは、ハトが自分の巣に帰ろうとする本能のこと。これを利用して鳩レースという競技が行われます。
ハトは全く知らない土地からでも自分の巣に帰ることができます。この能力については諸説あり、21世紀の現在でも、ハッキリとは解明されていません。主な説には「太陽コンパス説」(巣のある土地と放たれた土地の太陽の位置のズレから帰る方向を判定)、「地磁気説」(地球の磁気をとらえることにより変える方向を判定)の2つがあります。
飛翔能力については、日本国内では最長で1300キロ、海外では2000キロ以上のレースも行われており、このとんでもない距離を数日掛けて飛翔。自分の巣に戻ってきます。ただし長距離レースの場合、能力以外にも悪天候、猛禽類の襲撃といった諸条件も大いに関係し、途中でいなくなってしまうハトもたくさんいます。
また、ハトの能力は、それぞれの系統・血統の種類によって、大きく変わります。「スピード性が高いハト」、「悪天候時の帰還能力が強いハト」といった個々の能力の違いもあります。
下記に一般のハトとレース鳩の身体的な違いを表にしていますので、参考にしてください。
鳩の部位 | ドバトとの違い |
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骨格(こっかく) | レース鳩の方が太く、強健で見るからにガッチリしている。 |
脚(あし) | レース鳩の方が太くて頑丈。 |
鼻瘤(はなこぶ) | 土鳩と比べて大きい。 |
嘴(くちばし) | レース鳩は太くて短いが、土鳩は細長い。 |
眼環(めぶち) | レース鳩の方が広い。 |
翼(つばさ) | レース鳩の羽は硬くしまって強靭で羽ばたきは大きく強力で活発に運動する。 |
人間に例えれば、「公園にいるハト」は一般人、「観賞用のハト」はファッションモデル、「レース鳩」はアスリートといったところでしょうか。下記の写真で見比べてみてください!
ドバト
鑑賞鳩
レース鳩(写真は昨年度の日本エースピジョン賞全国1位)
●ハトの歴史と文化
ハトと人間の関係で、一番古い資料と言えば「旧約聖書」。ノアの箱舟から放たれたハトが、7日後にオリーブの葉を加えて戻ってきて、大洪水の水が引いたことを知らせた話が有名です。こちらのお話からオリーブとハトは平和の象徴とされています。
人によるハトの飼育は、1万年から6千年ほどの前の新石器時代から始まったといわれています。古代メソポタミアの文学作品「ギルガメッシュ叙事詩」にも、陸地を探すためにハトが放した話が記載されています。また紀元前約3000年前のエジプトでは、漁船が漁獲量を知らせるためにハトを利用していたという記録も残っています。
近代になってからは、通信用の伝書鳩として軍事用、報道用と大車輪の活躍。海や山での遭難事故の際も救助通信として利用されてきました。良い血統を持ち、鍛えられたハトは飛翔能力と帰巣本能に優れ、1000キロメートル離れた地点からでも自分の巣に戻ることができ、当時はあらゆる分野で重宝されました。
国内の記録では、カワラバト自体は飛鳥時代に渡来していたようで、伝書鳩としては江戸時代に輸入され、京阪神地方の商業用連絡に使われていたようです。明治期から昭和初期にかけては、主に軍事、報道通信などで使用されました。第2次世界大戦後、1964年の東京オリンピックの開会式での放鳩イベントの影響もあり、当時の若年層に爆発的な鳩飼育ブームが訪れます。ピーク時の1969年には、国内で約400万羽が飼育されていました。しかし通信情報手段の発展により、この当時から報道通信用の伝書鳩は次第に使われなくなり、伝書鳩の活躍の場は、鳩レースへと移り変わり、現在に至ります。
報道用伝書鳩「共同331号」の剥製。共同通信社本社内
その一方で、最近では災害時に通信が断絶され、孤立した集落の被災状況などを知らせる通信手段として、伝書鳩が見直されつつあるようです。
【第2章に続く】