連載2-13、交配について その一

このコーナーは、会員の方からの寄稿や過去に掲載された本誌の記事を元に、伝書鳩及び鳩レースの今昔を鳩仙人の語り口で掲載します。本稿は本誌で連載された「レース鳩作出余話」(83年〜87年連載)を引用・改編しています。(イラスト著作/無料イラスト素材 はちドットビズ)

では、この稿からは改めて本論に立ち返って、交配をどう進めるべきかを考えていくことにしようかのう。

鳩レースの醍醐味で一番に挙げられるのは、自分で考えて選んだ交配で作り出した選手鳩を飛ばして、優劣を争う楽しみじゃ。この楽しみが無ければ、長い年月の間、レース鳩との付き合いはできないと思うのう。自分が手塩にかけて作り上げた鳩をレースに参加させて、その優劣を争うのじゃから、当然、作出が上手く行われることが、まずレースに勝つための第一歩じゃ。

この文を読んで頂いておる方々の中には、鳩レースの超ベテランの方もおられる反面、新しく入会された新人さんもたくさんおられると思う。ベテランの方々から見れば、「今更、こんなことを」とお目だるい部分もあるかと思うが、初歩的なことから順にお話してゆこうかのう。

最初に、イギリスの大競翔家であった故・オスマン氏の初心者に対するアドバイスをお伝えしたい。彼は初心者が鳩レースを始めるにあたって、どのような種鳩をどのように交配すれば、最も成功率が高いかを次のように教えておる。

―まず、そのレース地域で最も成功している2鳩舎を選び、それぞれの鳩舎から遅生れの仔鳩(年内に主翼羽を全て換羽できない7、8月頃に孵化したヒナ)を数羽ずつ譲り受け、翌春、それぞれの鳩舎の雌雄を交互に交配し、その作出鳩でレースに参加しなさい。―

オスマン氏が述べておることは誠に簡単で、彼はそうすることによって、先輩たちの鳩を打ち負かすレース鳩を作ることができるといっておる。実はこれにはたくさんの深い意味があり、この言葉は噛みしめれば噛みしめるほど、味があることに気付く。

一つ目は、同じ地域の強豪鳩舎同士では、お互いの鳩を導入することが簡単ではないということなのじゃ。それが初心者ならば、何のこだわりもなく実行に移せるし、強豪鳩舎の立場にしても、初心者の求めであるがゆえに分譲しやすいという訳じゃ。

二つ目は、それぞれの強豪鳩舎では、ある程度の近親交配がなされている可能性があり、近親ゆえの虚弱化が多少なりとも進んでいると考えられる。それがお互いの鳩舎の異血交配によって、強権性が回復されるようになり、ここに大きな利点が生まれるのじゃ。

三つ目には、オスマン氏がその地域のトップ2鳩舎を選ぶように言っておる点じゃ。鳩レースは、地域によってそれぞれコースに地形的特性がある。他の地域でいかに優秀な成績を上げておる鳩の血統を導入しても、その地域には馴染まない場合も多いものじゃ。これは、これからも論じ、考えていきたい点ではあるが、外国産の良い血統同士を交配しても、なかなか結果が出ないのは、ここに原因がある場合も考えられるのう。

例えば、イギリスでは独特の濃いモヤが発生し、ベルギーやフランスのレースとは全く違うものとなる。このように地域によって様々な地理的、気候的条件が異なるため、オスマン氏はその地域で成功を遂げている2鳩舎を選んで、種鳩を導入するように忠告している訳じゃ。

もちろん、自鳩舎の鳩の性能を向上させる目的で、欧州などの先進国から種鳩を導入することは大切じゃ。しかしながら、同時に初心に帰って、地域の強豪鳩舎の血統の導入も再考する必要があるのじゃ。これは、なかなかに大切なことじゃと思うがのう。

では、話の続きは次回に譲るとするかのう…。                   (この稿続く)

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