連載2-35、世界の鳩界事情 八

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このコーナーは、会員の方からの寄稿や過去に掲載された本誌の記事を元に、伝書鳩及び鳩レースの今昔を鳩仙人の語り口で掲載します。本稿は本誌で連載された「レース鳩作出余話」(83年〜87年連載)を引用・改編しています。

ベルギー・アーレンドンクのヤンセン兄弟鳩舎。現在、この系統は世界の鳩レース界を席巻しておるが、オランダ鳩界には80年代に導入され、活躍を収めておる。

ベルギーの地図を広げてみると、ヤンセン兄弟が住んでおったアーレンドンクの町は、首都ブリュッセルの北東方向で、オランダに極めて近い場所じゃ。国境まで5キロほどで言語はフラマン語。オランダの愛鳩家との交流は、むしろベルギー国内よりも多かったのではないかとおもわれるほどじゃ。そのような地理的関係からヤンセン兄弟の鳩は、ずいぶんとオランダに導入され、多数の優れた活躍鳩舎が誕生する結果となった。

ヤンセン兄弟鳩舎の著書で有名となったスカーラケンス氏は、短・中距離レースのスペシャリストである。彼はヤンセン鳩舎の「ヨング・メルクス」の直仔に、グロンドラース鳩舎やホフケンス鳩舎の系統を交配することによって、中距離レースとして世界最大規模を誇るオルレアンNで好成績を上げておるが、それ以外にも、オランダ鳩界では好成績を残す鳩舎が多数、ヤンセン鳩舎の鳩を導入することによって生まれておる。また、このアーレンドンクに近いオランダ南部の地域は、オランダにおいても鳩レースが最も盛んな地域ということもできよう。

ただ、注意しておくべき点として、当時のオランダの愛鳩家達は血統に対する考え方が非常におおざっぱじゃった。日本で使っているような詳細な血統書の記載はなく、何々号の仔というような簡単な記述だけで事足りておった感があるのじゃ。したがって、当時は種鳩導入などの際にも、オランダの愛鳩家達が述べる血統については、充分に確認しておかねばならぬという苦労があった。逆に導入する日本の愛鳩家が、正しい血統書の記載方法を教えたという例もあるくらいじゃ。もちろん全ての鳩舎がおおざっぱだったという訳でなないぞ。まあ、あくまでも当時の話じゃから、現在ではずいぶんと改善されておることと思うがのう…。

さて最後じゃが、当時のオランダ鳩界をもう一度吟味すると、オルレアンNに代表される中距離でのビッグレースの場合、常勝鳩舎の出現は難しいものがある。そのような中でも好成績の鳩の血統をさかのぼると、そのスピード性を付与した基礎としては長い間の淘汰や改良により作り上げられたヤンセン鳩舎の系統やグロンドラース鳩舎のスピード系などがオランダ鳩界の短・中距離鳩の改良に大きな力となった事実を見逃すことはできぬじゃろう。オランダではこれらの優れた基礎鳩を使い、個々の鳩舎で優れたスピード系の鳩作りが進んできた訳じゃ。今後、さらに研磨されて、より優れた系統に育つのではないかと考えると、非常に興味深いものがあるのう。チューリップなど花づくりに長けた国であるオランダであるから、世界を席巻する真の名ブリーダーの出現が期待されるのう。

では次回、イギリスの鳩レース事情について語るとするかのう…。

(この稿、続く)

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