連載2-30、世界の鳩界事情 三
鳩レースを楽しむ愛鳩家達は、それぞれの興味の対象によってレースに対する取り組みが違ってくるものじゃ。できるだけ多くのチャンスに勝負を掛けたいと思う者は、短距離レースを好む傾向にある。これは欧州におけるレースマンに多いものじゃ。欧州は日本では想像もできないほど大平野のコースを選定できるため、地形に基づくハンディキャップは非常に少ないという利点がある。短距離レースは、放鳩地までの鳩の輸送が容易な点、独自の飼育管理の工夫で勝負をリードできる点、鳩レースの基本性能であるスピード性が影響する点などから、レース鳩飼育の第一関門じゃ。
さて、この短距離レースを我が国に置き換えてみると、日本では少し行けば山、また山である。山にさえぎられてしまうため、帰還コースは自然と定まってしまい、地形的に恵まれた鳩舎が常に上位を占めてしまうこととなる。となれば、レースが面白くないと考えてしまう方も多く、長距離志向のレースマンが増えるのもやむ負えないことじゃろう。
とはいえ、やはり短距離レースは鳩飼育入門の第一歩じゃ。わしが短距離レース用のスピードバードを初めて知ったのは、元協会会長の小野 宏氏がファブリー鳩舎から導入した鳩じゃった。軽快な細作りのトリだと記憶しておるが、同時期に導入されていた長距離レース用の鳩とは体型や体格に大きな相違があったことが思い出される。その約20年後の1976年、わしがアーレンドンクに住むヤンセン兄弟鳩舎を訪れた際、ヤンセン系のスピードバードを見せて頂いたが、この時の印象は長距離系の鳩と比べて、著しい体型・体格の相違が認められなんだ。
元々、わしは長距離レースの鳩のスピード性向上のため、短距離スピード系の利用を提唱してきたが、オランダ、ベルギーなどでも同様の考え方により、ベルギーのヤンセン系が取り入れられ、中距離はもちろん長距離レース用の鳩の改善に活用され成功していることは、ご存知の通りじゃ。
当時、ベルギーの短距離レースを得意とする鳩舎には、ヤンセン兄弟鳩舎の他、ヤン・グロンドラース鳩舎などがあるが、ここでもヤンセン系が導入され、その名声を広げてきたものじゃ。現在でも、スピードバードといえばヤンセン系がベストであり、それに比肩しうる系統は見当たらないのが現状じゃのう。
ヤンセン系の最も特徴的なのは、世界のレース鳩界でもまれに見る閉鎖型の近親交配を数十年にわたって繰り返し作り上げた、遺伝学的にも立派な純系鳩群といえる点じゃ。しかもその優秀性を今日まで世界各地の鳩レースで立証し続けておる。
わしは当時、日本においてヤンセン系を導入しても、地形的な点から直ちに成果が期待できるかは懐疑的であった。しかしながら、我が国の様々なレースマン達の努力により上手に活用され、現在でも最有力にあげられる系統となっておるのう。いずれヤンセン系については、改めて触れることとするが、同系統の活躍には系統の素晴らしさはもちろん、我が国の愛鳩家による研究の賜物であることも、忘れてはならぬのう…。
(この稿、続く)