連載2-29、世界の鳩界事情 二

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このコーナーは、会員の方からの寄稿や過去に掲載された本誌の記事を元に、伝書鳩及び鳩レースの今昔を鳩仙人の語り口で掲載します。本稿は本誌で連載された「レース鳩作出余話」(83年〜87年連載)を引用・改編しています。

前回は地形と天候のことを述べたが、一つ大切なことを忘れておった。それは、山岳地帯と平地では、天候が大きく違うということじゃ。これは、わしらの住む日本でも多い山越えレースで、特に心掛けておかねばならぬ。具体的には、高い山では平地よりも早く雨が降り始め、しかも天候の回復は半日から1日ほど遅れるということじゃ。

わしは長い間、長距離レースの都度、気象台へ足を運んでおった。職業柄、気象台職員の健康診断を行っていたこともあり、色々と天候のことを教えてもらったものじゃ。そのなかで、特に印象に残ったのは、日本アルプス付近の天気を知るためには、長野県松本市の予報を充分に参考にせねばならぬという話で、総じて先に述べたように、山の気象は平地とは違うということを聞かされたのじゃ。

高い山脈を飛び越えなければならないコースでは、この点は大きく影響する。逆にいえば、海越えのコースでも海峡の気象に十分配慮してレース運営をせねばならぬ。山岳地帯や海峡では、わしらの鳩舎がある平地からは考えもつかぬ気象の変異が起こるもので、そのためにレース鳩には悪天候を克服する能力が要求されるのじゃ。

次に風のことについても、少し述べておくことにするかのう。ご承知のように、鳩レースの場合、追い風に乗ったレースでは分速2千メートルに近づくこともある反面、逆風の長距離レースなどでは非常にレースは困難となる。ベルギーでは「ミストラール」などと呼ばれる地方風によって生じる逆風のレースでは、適応した飛翔能力を持つ鳩が、驚くほどの好成績を繰り返すことも多い。

この良い例は、1985年6月のブリーブN優勝、7月のリモージュN優勝と、ワンシーズンで2回優勝という快挙を成し遂げたアーサー・ラフレール鳩舎の「カイゼル」(82-3296634)じゃ。エミール・デニス氏の話によれば、両レースとも強い逆風であったことが、この鳩の天性の能力を発揮させたものと理解できるとのことじゃ。

話が脇道にそれたが、逆風レースといえば、マルセイユINにおいてロアール河渓谷を地中海に向けて吹き付ける風が有名であるが、こちらは日本に似た起伏にとんだ地形となっており、わしら日本のレースマンにも興味深いものじゃ。

そういえば、わしが1965年にファンブリアーナ氏を訪ねた際、同氏が「マルセイユには山岳地帯がコースにあるので、危険だから参加しない」と述べられたことに、大きなショックを受けた覚えがある。自鳩舎では、ポーN優勝の「トロー」やサンセバスチャンN優勝の「ターザン」など同氏作翔の直仔達を種鳩として使っておったが、その子孫たちに芽が出ることは無かった。このことから考えると、ファンブリアーナ鳩舎の鳩には、日本の複雑なコースへ対応できる耐久性が乏しかったのかもしれぬと、当時は思っておった。しかしながら、ファンブリアーナ系を主流にファブリー系やゴーラン系を交配させたポール・ジモン鳩舎がマルセイユINで活躍しておったり、今日まで日本においても、長距離系において同系統が様々な地域で活躍していることを考えると、一概には判断できぬものじゃと痛感させられたものじゃ。

このように、系統の性能について、ある一部分はマイナスと判断できる成績であったとしても、そのことのみで全てを判断するような早合点をしてはならぬ。良い特性を伸ばし、欠点を補う系統を交配して改善していくことにこそ、レース鳩の作出の妙味を見出すべきではないかのう…。

(この稿、続く)

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