連載3-16、日本鳩レース界の歴史
日本への伝書鳩の渡来 その六
話の続きは、日本においての伝書鳩の登場についての推理じゃったの。
まず、ヨーロッパにおいても十字軍の遠征前後から、ほとんど各国で、一般庶民による鳩の飼育が禁止され、それ以後、1789年のフランス大革命(人権宣言の公布)に端を発した社会組織の大変革の時期に至るまで、政府あるいは貴族だけが独占する通信手段になっていたのじゃ。
ヨーロッパの城という城には、ほとんど例外なしに鳩舎が設置されていたが、一般人からは縁の遠いものじゃった。
日本の場合も、同様の状態でなかったと誰が言いきれようか。ヨーロッパの場合との相違は、日本では、その事実を懸命に秘匿していたという点だけではないじゃろうか。なぜならば、明治時代に入るまで、江戸時代といえども一部の例外を除いて、伝書鳩の飼養は、全面的に禁止されていたからじゃ。
ならば実際、江戸時代以前や江戸時代において、将軍や戦国大名、幕府やその公儀筋では、ひそかにこれを使用していたのじゃろうか。
あるいはまったく逆に、江戸時代に至るも、士農工商はおろか、大名、将軍家に至るまで、忍法にも劣る卑劣な手段、また伴天連の邪法として、武士たちから黙殺され、禁止すると共に完全に飼養がなかったのか。本当に、通信に使えるような鳩は、江戸時代のある時期まで日本に渡来してなかったのであろうかのう。
これらの疑問点を追求してみることが、解決の糸口になりそうじゃが、その答えを見つけるには、さらに推論を分けて考えなくてはならないようじゃ。
① 第一次十字軍遠征後、間接的なルートで日本にも伝書鳩が入ってきて、その頃に勃興した武士団の間で少しずつ利用されておった。
② 日本への渡来はその200~300年後で、利用も深刻でかつ、長期にわたる南北朝の動乱に紛れてのものであった。
③ 下剋上が激しくなった戦国時代に、儒教や仏教の思想を捨てて、使いだした。
④ 渡来の時期は、ヨーロッパ人が日本に来訪し始めた戦国時代の中期以降。
⑤ 資料で確認できるように、江戸時代の鎖国以前には、まったく持ち込まれていない。
⑥ やはり、早くから伝書する鳩は導入、利用されていたが、この恐怖にも近い情報伝達の秘法を完全に秘匿しておった。
⑦ 邪法、あるいは武士道の精神にもとる手段であったとして、江戸時代末期に至るも公的には一切使用せず、私的な飼養やその利用を禁止しておった。
では次回、これらの7つの仮定をひっくるめて、もう一度考えてみるとするかのう…。
(この稿、続く)