連載2-26、交配について 十四

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このコーナーは、会員の方からの寄稿や過去に掲載された本誌の記事を元に、伝書鳩及び鳩レースの今昔を鳩仙人の語り口で掲載します。本稿は本誌で連載された「レース鳩作出余話」(83年〜87年連載)を引用・改編しています。

ヘクトール・デズメ系―。1960年2月に行われたヘクトール・デズメ氏が亡くなった後の全鳩売立に際し、ヨセフ・ケンペニール氏によって、当時の最高価格ともいえる7万2千ベルギーフランで落札された「ウィットペン」(52-461463 BW)は、まさに世紀の銘鳩といえよう。

この鳩は、55年サンバンサンN7位、サンセバスチャンN7位、56年カオールN44位、57年ブリーブN57位、リボンヌN152位、サンバンサンN119位、マルセイユIN8位、59年バルセロナIN28位、マルセイユIN6位と、7才という年齢に至っても、なおバルセロナやマルセイユのINで立派な活躍を遂げておる。

ヘクトール・デズメ氏が亡くなる数日前、ピート・デヴィート氏と共に病床を見舞ったギャレー氏は、「この鳩(ウィットペン)が、本当に良い鳩を理解できる優れた愛鳩家の元に移って、数々の良鳩を作出してくれることが、私の最後の願いです」と述べたデズメ氏の心情を感慨深く記述しておる。このデズメ氏の願いは、ケンペニール鳩舎にて実を結び、子孫はデズメ氏の最後の言葉に応える働きをしておるのう。

「ウィットペン」の血統は、ベルギー鳩界のCH鳩に大きな影響を及ぼした「プリンス」(50-735680 B)に「プリンセス」(50-3537371※オスカー・デフレンド鳩舎の「ツワルテバンド」の姉妹)を交配して作出されており、誠なる名系の集積によって作り出されたCH鳩じゃ。

「プリンス」は52年ブロア2位、アンゴーレムN2位、ブリーブN82位、53年ドールダン2位、オルレアン67位、リボンヌN4位、55年ペリグーN18位、アビグノンN4位、サンバンサンN4位、アンゴーレム4位などの好成績を挙げており、こちらも「ウィットペン」とほぼ同額でノーベル・ノルマン氏に買い取られ、多数のCH鳩作出に貢献しておる。

「プリンス」の血統は、父がカトリス鳩舎の有名な「45」に、その近親である「オード・ウィットグ」とオスカー・デフレンド系を交配した雌を近親交配、母は、ホーレマン鳩舎の基礎交配鳩にファンデルエスプト鳩舎の49年アンゴーレム優勝を交配して作出されておる。

これらを要約して考えると、ヘクトール・デズメ氏の作出傾向は、どこまでも異血交配を、しかも当時における第一流の代表的な有名鳩舎のCH鳩の系統により、遂行してゆく形じゃな。この作出スタイルの結果として、後世に名を残すような銘鳩を作り上げてきたのじゃ。

ちなみに、ケンペニール鳩舎においては「ルルド」(81年ルルドIN2位、ポーP2位)、「マルセイユⅡ」(マルセイユN優勝)、「80-5005368」(82年ブリーブN優勝※2位を35分引き離す)などの好成績を残した鳩は「ウィットペン」のラインじゃ。一羽の銘鳩が、いかにその後の良きレース鳩の作出に大きく貢献しているかを示す良い事例じゃのう。

では次回、デズメット・マタイス系やモーリス・デルバール系について語るとするかのう…。

(この稿、続く)

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