趣味のピジョンスポーツ 第13回「競輪と鳩レース、2つの勝負の世界で生きて」 天野 茂鳩舎
「鳩を飼い始めたのは、中学生の頃から。人生において、鳩を飼うことは生活の一部になっています。本当に可愛いし、鳩がいなかったらと考えると、寂しい人生だったと思いますよ」。
徳島県在住の天野 茂さん(62歳)は、こう自身のピジョンライフを振り返ります。天野さんが鳩と出会ったのは、中学1年生の時。近所の友達が伝書鳩を飼っていたことをきっかけに、鳩を譲ってもらい飼い始めたそうです。
最初は舎外のみで鳩飼育を楽しんでいましたが、その友人のお父さんが日本伝書鳩協会の会員で、話を聞いている内に自分自身も鳩レースを楽しみたいと思うようになります。そして中学2年生の時、同協会の徳島北支部にジュニア会員として入会。本格的に鳩レースを開始しました。高校を卒業するまでの間、一番の思い出は北海道木古内町からの1000Kレースを帰還させたことだそうです。
「3日目帰還で支部6位に入賞。初めて北海道から帰すことができたけれど、何せ3日目。正直、嬉しいというよりも待ちくたびれました(笑)。その鳩の系統はわかりません。当時は、きちんとした血統書も無かったですからね。これを機に『きちんと、血統書を管理しよう』と思いましたよ」。
高校を卒業後、天野さんは競輪選手を目指し、競輪学校に入学。1年後から、競輪選手としての人生が始まります。競輪選手は全国を転戦しながら移動するため、とても鳩を飼えるような時間はありません。やむなく鳩飼育は中断。今度は鳩ではなく、自分自身がレースの世界で過ごす毎日を送ります。
ところが、順風満帆に思えた競輪人生の中、天野さんは大きな挫折を味わいます。レース中に接触事故が起こり、大怪我を負ってしまったのです。なんとか復帰はできたものの、以前のような状態には戻れなかったといいます。失意を抱えたまま、選手生活を送る天野さん。そんな彼を救ったのは、競輪の宿舎から見かけたレース鳩でした。
「この怪我では競輪選手としては、厳しいだろうなと。それからは無理をしないように、レースをこなしていくようになりました。そんな頃、熊本で開催されたレースに参加していた時、宿舎の窓からレース鳩の舎外を見かけたんです。それを見ている内に『もう一度、鳩を飼ってみたいな』と思うようになりました。何となく、運命的な感じがしましたね」。
こうして20代後半の時、以前の日本伝書鳩協会・徳島北支部に再入会し、鳩レースに復帰。その後、天野さんは41歳の時に競輪選手を引退し、家業の自転車屋を引き継ぎます。これにより、本格的に鳩一筋の生活に戻っていった天野さん。その間、同支部は2つに分かれ、一部の会員が当協会に移り、天野さんもその一員でした。
以来、両協会で天野さんが残した成績は、よみうりランド500K全国2位、四国Rg総合優勝、楓賞200K西部地区優勝など、総合優勝15回という華々しいもの。しかし50歳を過ぎた頃、再び鳩レースを中断してしまいます。
「中断した理由はいろいろあるけれど、一言でいえば、人間関係に疲れたんですよ。『競輪選手も鳩飼いも陰口を言われて一人前』と思うけれど、やはり勝負の世界は揉め事が多いからねぇ…」。
とはいえ「鳩は生活の一部」というほどの鳩好き。なかなか鳩レースのことを忘れられるものではありません。そんなある日、東京都で開催される鳩業者のオークションに参加した折、旧友である日本伝書鳩協会の新井博久さんと再会。この出会いが、鳩レースの世界へ戻る転機となりました。
「新井さんとは、よみうりランド500K入賞の副賞であるタイ旅行で知り合ったんです。近況を話したところ『委託で鳩レースをやれば』と誘ってくれた上、種鳩(クリンチェ系)も譲って頂きました。これで、レースへの情熱が再燃しましたね」。
すぐさま日本伝書鳩協会へ所属し、「天野ロフト」の名で委託レースを再開。そして2年前、当協会の賛助会員へ、本名の「天野 茂」として入会。当協会への入会の理由は「八郷鳩舎で併催される、東日本CH900Kレースで戦いたい」と思ったことだそうです。
「東日本CHといえば、子供の頃から鳩雑誌で見ていたメジャーなレース。やはり、地方の人間からしたら、関東三大長距離レースというのは憧れですから、一度は勝負してみたかった。今、使っている血統はクリンチェ系とオランダ輸入系ですが、鳩には『何か一つ光るものがあれば良い』と思いますね。導入では、血統よりも鳩質や飼い主の人柄を重視しますね」。
そんな天野さんは、今年の「八郷国際サクセス200K」で第9位に入賞。初めての委託で、国際委託鳩舎レースのベストテン入りを果たします。今年は残念ながら、新型コロナウイルスの影響でレース中断となってしまい、「東日本CH」に挑戦するという夢は、来年以降に持ち越しとなりました。また天野さんは、お付き合いのある全四国地区連盟・阿波連合会の中野良博さんを介して、伊賀の連合会対抗レースにも参加しているといいます。
「今年は八郷に9羽、伊賀に10羽を預けています。今のところ(10月初旬)、7羽と9羽が残っているので、秋のレースが楽しみですね。今は委託のみのレース参加で大満足。私の望みは、笑顔でレースができること。全国の賛助会員の皆さんも、私と同じ気持ちの方が多いと思います。これからも皆で、楽しく鳩を飼っていきましょう」。
競輪選手と鳩レース、2つの勝負の世界で生きてきた天野さん。その厳しさと楽しさを知り尽くした同鳩舎は、これからも素晴らしいピジョンライフを送られることでしょう。