趣味のピジョンスポーツ 第9回「大空を舞う鳩に、夢を託して…」 須田明雄・広子夫妻

須田明雄さんと妻の広子さん(写真右)
今回ご紹介する賛助会員の方は、福島県内にお住いの須田明雄・広子夫妻(70歳・56歳)。須田さんは55歳の時、不慮の事故で頸椎損傷という大怪我を負われてしまいます。その後、60歳を越えてから鳩飼育に出会われました。身体が不自由な中、奥様の協力の下に鳩飼育と委託レースに精を出す日々。そのピジョンライフとは…。

「伊賀オータムカップ200K第2位・第10位」、「伊賀サクセス200K第10位」、「八郷国際ダービー400K第4位」、「伊賀ウィナー300K第2位」、「伊賀国際ダービー400K第10位」…。今年度の八郷・伊賀の両国際委託鳩舎レースにて、5羽をベストテン内に叩き込んだ賛助会員の須田明雄さん(70歳)。

これほどの成績ならば、一見、鳩レース歴の長いベテラン愛鳩家に思えますが、実は鳩レースと出会って、わずか6年だとか。また、55歳の時に事故で頸椎を損傷し、現在は車椅子の生活を余儀なくされています。では鳩歴が浅く、しかもお身体が不自由な須田さんは、どのようにして、この好成績を収めることができたのでしょうか。

須田さんのお仕事は建設関係の会社の経営者で、以前は「狩猟が趣味」というほどアクティブな性格でした。鳩飼育と出会ったのは64歳の時、思わぬことがきっかけだったといいます。

「鳩は、中学生の頃にドバトを捕まえて飼っていた程度。それから60歳を越えるまで、鳩とは無縁の生活でした。それがある日、カラスに襲われている鳩を見かけたんです。それを仕事仲間であった阿部則夫さん(福島北部連合会)に話したところ、鳩レースのことを教えてもらいました。委託レースならば、車椅子の生活でも趣味が持てると思って。まあ、生き物を狩る側から育てる側に変わったということです(笑)」(明雄さん)。

思い立ったら即行動とばかり、当協会の賛助会員に入会。友人達の協力を仰ぎ、3坪の鳩舎を建設し、続いて種鳩の導入です。「やるからには本気で」と考え、『レース鳩誌』などを参照にして、自分なりに血統の研究を重ねたといいます。

「まず考えたのは、大きなレースで飛んでいる強豪鳩舎の系統を入れること。それも親・仔・孫と3代連続で飛んでいることを基準に種鳩を探しました。自鳩舎の系統の主力は、北関東栃木連盟の強豪・吉村和道鳩舎(宇都宮中央)のライン。配合ではヤンセンなどのスピード系を掛け合わせることが多いですね。見た目は、翼が大きくがっちりした長距離系の体形を重視しています」。

さて、鳩を飼う準備と作出の配合式まではできたものの、問題は飼育管理。車椅子生活では、こればかりはままなりません。そこで奥様の広子さん(56歳)の登場です。

「鳩を飼うのは相談無しで、いきなり鳩舎ができちゃった感じ。飼育方法がさっぱりわからず、餌は食べきる程度に与えることや掃除の仕方までも、鳩を飼っている友人達に教えてもらいました。とにかく病気が怖いので、協会のピジョンクリニックで投薬方法を聞くなどして、最初は手探り状態。カンで飼育していたようなものです(笑)」(広子さん)。

しかし元々、動物好きだったこともあり、いつの間にか広子さんも鳩飼育にハマります。18年に当協会の福島北部連合会へ入会。現在は賛助会員としてご自身の名前で委託レースを行っており、「19年度八郷サクセス200K第10位」にも入賞されています。

さて15年から委託レースを始めた須田さん。レース歴2年目の16年度に「八郷国際サクセス200K第3位」、「伊賀広島平和祈念300K優勝」と、いきなり大輪の花を咲かせます。その後も17年度「伊賀広島平和祈念300K第4位&第5位」、18年度「八郷オータムカップ200K第10位」「八郷国際サクセス200K第3位」、19年度「八郷国際サクセス200K第5位」、「伊賀オリエンタルカップ700K第2位」、そして今年の成績と、勢いはとどまるところを知りません。

また17年には地元・福島中連盟の桜花賞900Kで、自身の作出鳩『フレンドシップ号』が、前述の阿部則夫鳩舎(福島北部)使翔で総合優勝(東北南部ブロックCH第3位)を飾っています。果たして、その強さの源とは…。

「普段のレースでは毎回、レース速報を娘がタブレットで見せてくれるんですよ。伊賀広島平和祈念300Kで初優勝した時は、母鳩の作出者である埼玉県の新井 繁さん(埼玉北辰・10年日本最優秀鳩舎賞受賞)からご連絡をいただきました。最初に聞いたときは信じられなかったですね。楽しみなレースは、やはり長距離。これまで700Kまでしか帰したことがないので、なんとか900Kを帰還させたいですね。作出の配合を考えるのは楽しいし、産まれたヒナを見ると癒されます。鳩レースに出会って、人生が変わった気がしますよ。好成績を残せる理由?全て、妻のサポートのおかげでしょう」(明雄さん)。

さて、須田さんから全面の信頼を置かれている奥様の広子さん。鳩飼育のみならず、会社経営・ご主人の介護と、大変忙しい毎日を過ごしておられますが、気丈に頑張っておられるとのこと。では、その強さの源とは…。

「一度、主人が友人と話している時、こんな言葉を聞いたんです。『レース鳩は自由に動けない自分の夢を乗せて飛んでくれている』と。今は、主人に良い夢を見させてあげることが、私の役目だと思っています」(広子さん)。

自由に大空を舞うレース鳩は、ご夫婦の絆、そして大きな夢を乗せ、これからも羽ばたいてゆくことでしょう。

レース速報のチェックは、娘さん(写真右)にお任せ
鳩舎内で鳩の世話をする広子さん

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