趣味のピジョンスポーツ 第17回「出会いに感謝しつつ、一度きりの鳩レース人生を」 林 憲司鳩舎
50歳を越えて、初めて鳩レースの世界に飛び込んだという林 憲司さん(67歳)。林さんが、国際委託鳩舎シリーズにおいて、驚くような快挙を成し遂げたのは、鳩飼育を始めてから4年目のことでした。難関である『伊賀国際チャンピオン900K』で、当日唯一羽帰り優勝を獲得したのです。
「当時はオンラインでのレース速報もなく、最初の一報は伊賀スタッフの方から連絡をいただきました。『頭(アタマ)を取った』といわれたのですが、アタマの意味が分からず、何度も聞き返してしまいましたね(笑)。嬉しいというより『鳩レースの素人である自分が優勝してしまって申し訳ない』という気持ちでしたよ」(林さん)。
林さんは、子供の頃から滋賀県在住。石の切り出しという家業の関係で、山男たちに囲まれた生活だった子供の頃、職人たちが捕えてくる山鳩を見て「かわいい」と思ったことが鳩との出会いでした。中学生の頃、鳩ブームもあり飼育しましたが、あくまでも一時的なもの。大学を卒業後、地元の銀行で営業マンとして働き、支店長まで務めたというほどの仕事一筋の人生の中で、手間暇のかかる鳩飼育など思いもよりませんでした。
それが一転したのは、50歳の頃。何気なく見ていたテレビで、欧州開催の鳩の大レース、バルセロナ1000Kレースの特集が放送されたことです(番組名「飛べ・世界一速く」、02年にNHKにて放送)。「こんな大規模な鳩レースがあるのか」と興味を惹かれていたところ、ペットの犬の餌を購入していた店のご主人から「鳩レースをやってみないか」と誘われたのです。
「ご主人が滋賀連合会の会員さんだったんですよ。最初、『住宅街なので鳩飼育は無理』と断ったのですが、『鳩舎を間借りすればいい』といわれて。『そこまでおっしゃるなら飼ってみます』といったのが、鳩に夢中になるきっかけ(笑)」。
かくして、賛助会員として当協会へ入会し、地元の滋賀連合会の皆さんの協力の下、鳩飼育を始めた林さん。03年にシオン系の種鳩2羽を導入。04年から鳩友に委託してレースをスタート。当時、近隣の会員さんに、色々と協力をいただいたといいます。
「右も左もわからない状態からのスタートでしたから。分有鳩舎として鳩舎の間借りから種鳩の導入や委託レースまで、皆さんに助けてもらったんです」。
鳩友の鳩舎に委託して、レースを楽しむ日々。しかし、やはり自鳩舎でレースが行えないため、「今一つ、面白みに欠ける」と思っていた時、地元滋賀県の隣の三重県に当協会の新たな国際委託鳩舎である、伊賀国際委託鳩舎がスタートするという話を聞きます。
「地元の近くに、ワンロフトレースを行う国際委託鳩舎ができると聞き、ワクワクしました。自分で作った鳩が全国の舞台で戦うと考えただけで興奮しましたね。建設中の伊賀鳩舎へ夫婦で見学に行ったほど(笑)」。
かくして、06年に伊賀国際委託鳩舎へ2羽を委託。最初のレースである「国際サクセス200K」では636羽中148位の成績でしたが、結果はともかく、自分の名前で初めて順位がついたことが嬉しかったといいます。
「この頃、お世話になっていた河村圭悟さん(滋賀)の鳩舎から、1羽の種鳩を導入しました。ひと目で気に入ってしまい、随分と無理を言って譲って頂いたんです。まさか、その直仔があれほど活躍するとは…」。
07年当時、河村さんから導入した鳩を入れても、種鳩はわずか2ペア。この年、伊賀鳩舎へ預けたのは3羽だけでした。しかしそのうちの1羽が、08年度のレースで快進撃を繰り広げます。初戦の200Kは219位、300K10位、これが林さんにとって初のベストテン入り。あれよあれよという間に500K17位、700K28位となり、最終レースである北海道長万部からの900Kに挑戦することになりました。
「この前年、家内と北海道旅行へ行き、長万部を訪れていたんです。河村さんがニュー近畿地区連盟の長万部900Kで総合ワンツーという素晴らしい成績を残されていたことが頭に焼き付いており、『こんな遠い所から帰ってくるのか。自分もいずれこの地から帰ってくるレース鳩を作りたい』と思いを馳せましたが、こんなに早くその時が訪れるとは…」。
前述のとおり、同レースで見事な当日唯一羽帰り優勝を獲得。鳩を飼い始めて4年目、国際委託鳩舎へ参加3年目で、最高の栄誉を射止めてしまったのです。
「本当にラッキーですよね(笑)。落ち着いてから勝因を考えましたが、地元の飛び筋で実績の配合だったこと、気象条件に恵まれたこと、伊賀スタッフの方々の手厚いお世話があったことの3つだと思います。皆さんのおかげで、夢を叶えさせて頂きました」。
初委託、そして3年目の快挙から現在まで16年間、林さんは委託レース一本で鳩飼育を続けてきました。その間、委託羽数は119羽で、優勝3回、ベストテン入賞12回。少ない委託羽数でありながら、目を見張る成績を挙げられています。そんな鳩を愛する林さんに鳩レースの魅力を伺うと…。
「委託レースは、作出数が少なくても大レースに参加できて、上位入賞も見込めます。公平な条件で強豪鳩舎の鳩と戦えることが一番の魅力。また、色々な方々の協力があってこそ、鳩飼育を楽しめていると思います。これからも鳩に夢を託し、人との出会いに感謝しながら、一度きりの鳩レース人生を続けていきたいですね」。
偶然の出会いから、鳩に人生の後半をかけた林さん。これからも様々な良き出会いを繰り返しながら、ピジョンライフを送られることでしょう。